マルコム・アーノルド(1921~2006)は、映画『戦場にかける橋』や『汚れなき瞳』などの音楽で知られる現代イギリスの人気作曲家である。
音楽好きの両親の影響で、幼いころからさまざまなジャンルの音楽に親しんだ彼は、王立音楽大学でトランペットの演奏に磨きをかけると同時に作曲を学ぶ。卒業後、ロンドン・フィルに入団し、数年後には首席奏者に抜擢されるほどの実力の持ち主であった。
1948年に同楽団を退団すると、本格的に作曲家の道を歩み出し、9曲の交響曲をはじめ、バレエ音楽、協奏曲、室内楽曲など、あらゆる分野で多くの作品を発表した。彼の作風は、クラシカルな形式を守りながら、親しみやすいメロディー、よく鳴るオーケストレーションなどが特徴で、幅広い人気を獲得している。
今回取り上げる序曲『ピータールー(作品97)』は、1967年、英国労働組合会議100周年を記念し委嘱された作品で、世に言う「ピータールーの虐殺」を、ほぼ時系列で描いたもの。
1819年4月16日、イギリスのマンチェスター郊外のセント・ピーターズ・フィールズで行われた集会に集まった約6万人といわれる民衆に対して、騎馬警察隊が発砲、11人が死亡、600人以上が負傷するという惨事となった。
曲は冒頭、穏やかで荘厳なハ長調の旋律が弦楽器で奏される。やがて音楽は、騎馬隊を表す2台のスネアドラムの登場とともに不穏な空気に変わり、管楽器の乾いた咆哮(ほうこう)や打楽器の容赦のない連打等、異常な緊張感のうちに曲が展開する。銅鑼の一撃で曲は静まり返り、広がる周囲の惨状・・・。やがてオーボエのソロがかすかな希望のように冒頭の旋律の一節を奏で始める。コーダでは、全楽器が「正義」のカンタービレを力強く歌い上げ、最高潮に達するうちに曲は閉じられる。
ピストルや掃除機(4台!)が登場する『グランド・グランド・フェスティバル序曲(作品57)』や「ホフナング音楽祭」のための作品などウイットに富んだ作品で知られる彼の、違った一面を見ることができる傑作だと思う。
演奏時間はおよそ10分
【お薦め盤】
ラモン・ガンバ指揮、BBCフィルハーモニック(シャンドス)
【追記】
youtubeに映像が掲載されました。(2010年2月1日加筆)
※演奏は異なります。
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