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2014年2月

2014/02/02

中部フィルの活躍に期待する

まもなく立春を迎える如月の2日、中部フィルハーモニー交響楽団の第24回定期演奏会を聴くために小牧市市民会館(愛知県小牧市)を訪れた。

この楽団の演奏会を聴くのは、果たして何年ぶりだろうか…。かつては何度も続けてここへ足を運んだり、三重県松阪市で開催された演奏会に遠征するなど、地元の新進オーケストラとして応援したい気持ちと相まって、熱心に聴きに出かけたものだ。


Komakihall


この中部フィルハーモニー交響楽団は、名古屋フィルハーモニー交響楽団セントラル愛知交響楽団に続く、中部圏3つ目のプロオーケストラとして活躍している。

楽団の歴史は新しく、創立は2000年。広く中部圏の「音楽芸術文化の振興と向上」を図ることを目的に、市民や企業、各種団体の協力を得て(←プロフィールより抜粋)小牧市交響楽団として発足した。翌年には特定非営利活動法人(NPO法人)となり、2007年に現在の名称に改名したのを契機に、愛知・岐阜・三重の東海3県への演奏活動を、より活発化させ、現在では、本拠地である小牧市や犬山市に加え、三井住友海上しらかわホール(名古屋市)、サラマンカホール(岐阜市)でも、定期的に演奏会を開催している。

これは、楽団の最大の支援企業である東海ゴム工業株式会社の創業地が三重県であったり、かつての事務局長が岐阜県出身だったという縁に加えて、理事長以下、幹部自らがトップセールスを行い、各地におけるオーケストラの拠点づくりに尽力した成果でもあろう。

こうした拡大路線を続ける背景には、公益社団法人日本オーケストラ連盟への正会員としての加盟を目指していることも、ひとつの要因として挙げられる。(現在は準会員。正会員になるためには、定期演奏会の開催数をはじめ、いくつかのハードルがある)

2010年、楽団の歴史を揺り動かす大胆な改革が、音楽界の大きな話題となった。もともと厳しい財政状況に加え、さまざまな課題を抱えていた楽団が、より一層のレベルアップを図るべく、全メンバーに対してオーディションを実施し、不合格の者は切るという大鉈を振るったのである。

一部の団員は反発し、労働組合を結成するなど抵抗したが、予定どおりオーディションは断行され、その結果、団員の約4分の1にあたる10人が解雇されるという事態となった。(この改革には、現在、同団の芸術監督兼主席指揮者である秋山和慶の意向もあったとされる)

将来を見据えた上での、やむを得ない決断だったとはいえ、当事者の団員たちにとっては断腸の思いであったに違いない。こうした苦難を経て、新しく生まれ変わった中部フィル。久しぶりに聴く演奏への期待は、いやがうえにも高まる。


Chubuphilleaf


会場には、開演1時間ほど前に到着。高速道を利用すれば、わが家から車で1時間ほどなので、便利といえば便利だ。

この会館は、2008年から翌年にかけて約40年ぶりに改装されたらしいが、ホール内の雰囲気は、以前とほとんど変わっていないように思える。多目的ホールでもあり、音響面を含めた大規模な改修は難しかったのかもしれない。

受付は専門のホールスタッフではなく、地元のボランティアの方々が担っているようだ。ロビーも、僕の地元の施設に雰囲気が似ていて、なぜか気分が落ち着く。

席に着いて周囲を見渡すと、1334席を擁する客席の1階は、小さな子供からお年寄りまで、およそ9割近くが埋まっている。聞こえてくる話の内容から、地元の人たちが数多く来場しているようで、改めて地域に愛されているオーケストラなんだなあと実感する。(もちろん、家族や知り合いに頼まれて、義務的に来たような人もいたようだが)

もし予備知識なしで、初めて中部フィルの演奏会に訪れた人は驚くかもしれない。なぜなら全団員に占める女性の割合が、圧倒的に多いからだ。 何と9割以上が女性、それも皆、若い! まるで「レディース・オーケストラに、エキストラの中年男性奏者が若干名加わっているような光景」とでも表したらいいのだろうか。男性の立場としては、うれしい限りなのだが…。


冒頭、客演コンサートマスターの稲庭達のソロにより、ヴィヴァルディの『四季』から「冬」と「春」が演奏された。

指揮者の秋山和慶は、チェンバロを弾き振り。演奏は古楽器奏法を取り入れたものではなく、ちょうどイ・ムジチ合奏団のようなモダンスタイルによる解釈。 編成が比較的小さいので、いきおい奏者個々人の力量が目立つことになるが、演奏は生気にあふれ、音色も艶やかで美しかった。

ただ、ソリストの意見を取り入れた結果なのだろうか、楽想のデフォルメがいささか不自然に聞こえる場面もちらほら…。もちろんこの曲は、いろいろな解釈や表現が可能で、それがまた聴き手にとって楽しみのひとつでもあるのだが、今回はテンポやアーティキュレーションなど、音楽の自然な流れを阻害しているようにも感じた。

続いて演奏されたのが、モーツァルトの『ピアノ協奏曲第20番ニ短調(K.466)』。ソリストは、今、僕一押しの若手ピアニストと言ってよい萩原麻未。彼女の実演に接するのは、数年前にラヴェルの『ピアノ協奏曲ト長調』を聴いて以来である。

ステージに現れた彼女は、薄水色の衣装をまとい、以前と変わらず初々しい。1年ほど前、テレビ番組『題名のない音楽会』の出演時と比べると、かなりほっそりとした印象だ。

第1楽章が始まると会場の空気は一変し、ほの暗い雰囲気が漂う。ティンパニが硬めのマレットを使って要所要所にフォルテを打ち込むが、それがまたこの曲にふさわしい。ピアニストの、曲に対する「のめり込み」はすさまじく、前かがみの姿勢とともに、まさに曲に没頭しているといった印象だ。音色は多彩で変化に富み、繊細なタッチを駆使して、モーツァルトの悲しみや喜びを描き切ってゆく。弱音部における細かいニュアンスの変化が、ことのほか美しく、オケともども、これまで僕が聴いた「ニ短調協奏曲」のベスト演奏だと評価したい。

曲が終わり、大きな拍手に迎えられ、照れながらステージに小走りで登場する姿は、乙女らしい純粋さを感じさせる。鳴り止まぬ拍手に応えてアンコールで演奏された、J.S.バッハ作曲&グノー編曲の『アヴェ・マリア』の、これまた美しかったこと!

それにしても、彼女ほどの実力と話題性(容姿を含めて)を兼ね備えたピアニストにもかかわらず、発売されているCDの数が極端に少ないのはなぜだろう?彼女クラスなら日本コロムビアエクストン(オクタヴィア・レコード)などの大手レーベルから、熱心なオファーがあってもおかしくないはず。何らかの事情が、あるのだろうか…。


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15分間の休憩の後、当日のメインプログラムであるメンデルスゾーンの『交響曲第4番イ長調(作品90)』が演奏された。

「イタリア」の題名が示すとおり、南国の青色と白色が空一杯に広がるような、すがすがしいアレグロ楽章からして、このオーケストラにぴったりの選曲だと思った。この日の演奏の流れから考えて、名演は約束されたようなもので、指揮者の見通しのよい端正な音づくりに身を任せながら、安心して聴くことができた。終楽章のサルタレロの熱狂も、なかなかの聴きものだったが、第3楽章のトリオにおける数回にわたるホルンの吹き損じは、いささか気になったのも確かだ。

アンコールでは、レスピーギの『リュートのための古風な舞曲とアリア』第3組曲から「シチリアーナ」がしっとりと演奏された。僕にとっては久々に耳にする曲で、懐かしさを感じながら聴き入っていた。(最後のところで、客席から携帯端末の着信メロディーが鳴り始めたのには閉口した)

終演後はロビーにおいて、萩原麻未のサイン会が行われた。来場者を見送る主催者や楽団員などが入り乱れる中開催されたサイン会だったが、一人ずつ丁寧に対応する彼女の華奢で小柄な姿に、改めて好印象を抱いた。


今回、久しぶりに中部フィルの演奏に接してみて、以前と比べ、格段にレベルアップしたというような印象は受けなかった。それは決して悪い意味で言っているのではなく、以前の演奏も、今回に劣らず素晴らしかったからだ。

これまで国内の様々なオーケストラの演奏を聴いてきたが、中部フィルの技量は、決してそれらのオーケストラに劣るとは思わない。ただ、あえて不足している要素があるとすれば、それは予定調和を超えた激しさとか大胆さなのかもしれない。しかし僕は、この楽団が演奏するマーラーやブルックナーなどの後期ロマン派や、ストラヴィンスキーやバルトークなど、近現代の複雑で大規模な作品に接した機会がないので、演奏面における拙速な評価は差し控えたいと思う。

両雄(名フィルやセントラル愛知)に比べると活躍の場も少なく、知名度においても、まだまだ影が薄いという印象は否めない。僕の周囲には、「中部日本交響楽団」(同じく中部地区で活動する非常設のオーケストラ)と混同している音楽関係者もいるくらいだ。

しかし、小牧市市民会館というホームグラウンドを持ち、行政や地元有力企業の温かい支援を得、地域住民に愛されているということは、大きなアドバンテージであることは間違いない。団員数42名(現時点)は決して十分な数ではないが、あのオーケストラ・アンサンブル金沢※よりも多い。

やみくもに他のプロオケを追いかける必要はないし、そもそも極端な拡大路線は、現状においては難しいと思われる。ただ、事務局体制の強化、とりわけマネジメントに長けた人材の確保は、楽団の発展には欠かせない。例えば、支援企業の中から、優秀な営業マン(音楽好きであることが条件)を複数人「研修派遣」してもらうなどして、売り込みに注力していかないと、本当の意味で楽団の将来は望めないだろう。

これからも地域に根を下ろし、フレッシュさを武器に着実に実績を積み重ねていってほしいと願っている。

※注 オーケストラ・アンサンブル金沢は、室内オケという編成でトロンボーンを欠くことから、実質、規模はほぼ中部フィルと同等といえる。


【お薦め盤】

最新CD。ラヴェル、ショーソン、ビゼーの名曲、名演揃いです!

Chubuphilcd_2


【関連映像】
youtubeに、小牧市による紹介映像などが掲載されています。


※敬称は省略させていただきました。ご了承ください。


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