« 2013年12月 | トップページ | 2014年2月 »

2014年1月

2014/01/19

世界最高のホルン奏者バボラーク

世界には、思わず「天才だ!」と喝采をあげたくなるような人物が現れるが、彼は、まさにそんな音楽家の一人だ。今や誰もが認める世界最高のホルン奏者、ラデク・バボラークである。

僕が、初めて彼の演奏を聴いたのは、NHK-BS放送の音楽番組だったと思うが、それまでに聴いたこともない雄弁で多彩なホルンの響きに圧倒されたことを憶えている。

そのバボラークのホルン・リサイタルを聴きに、寒さ厳しい1月19日、豊田市コンサートホール(愛知県豊田市)に出かけた。


Toyotacityconcerthall


このホールを訪れるのは、以前、アルド・チッコリーニのピアノリサイタルを聴いて以来2度目となる。名鉄三河線豊田市駅前「とよた参合館」の8、9階に位置するシューボックス型のクラシック音楽専用ホール(客席数1004)で、場内の雰囲気や音響は実に素晴らしい。

バボラークは、1976年チェコ生まれ。8歳よりホルンを学び、プラハ音楽院での研鑽を経て、ミュンヘン国際コンクールで優勝。「ホルンの神童」として一躍脚光を浴び、現代屈指のホルン奏者として、ヨーロッパやアメリカなどで活躍。ベルリン・フィルの主席奏者をはじめ、世界の名だたるオーケストラを歴任した。現在は、ソロのホルニストとして、オーケストラとの共演や室内楽などで精力的に活躍している。サイトウ・キネン・オーケストラや水戸室内管弦楽団への客演経験もあり、日本でもおなじみの演奏家である。

当日のホールの客席は、6、7割程度が埋まり、熱心なファンに混じって地元高等学校の吹奏楽部らしき生徒も多数詰めかけていた。演奏曲目は、ホルンのオリジナル作品や編曲ものが並び、合間に菊池洋子のピアノソロを織り交ぜるというプログラム構成となっていた。

最初に演奏されたベートーヴェンの『ホルン・ソナタヘ長調』は、この分野における傑作として知られている曲で、全体は3つの楽章からなるが、15分ほどの比較的短い作品。冒頭、ファンファーレ風に朗々と奏でられるホルンの音を聴いていると、「ホルンって、こんなに素晴らしい楽器だったんだ」と思わずにいられない。いつまでもずっと聴いていたくなるほど魅力的で、今回は比較的後ろの方の席だったにもかかわらず、ホールの音響の良さも相まって、細かなニュアンスまで実によく聞こえる。

ケクランの『ホルン・ソナタ』は、初めて耳にする珍しい作品だが、第1楽章の朝の雰囲気を感じさせる導入や、技巧的な3連音符の連続が印象的。バボラークの演奏は、勇壮なフォルティッシモから、ゲシュトップ奏法を取り入れた繊細なピアニッシモに至るまで変幻自在で、ホルンという楽器の多彩な表現力に、改めて驚いてしまう。菊池洋子のピアノ伴奏も、曲の雰囲気にふさわしく、バボラークとの相性もぴったりだ。

20分の休憩を挟んで、後半の初めに演奏されたシューマンの『3つのロマンス』は、オリジナルはオーボエのための曲にもかかわらず、まるで元々ホルンのために書かれた曲のように聞こえる。オーボエのパートをホルンが演奏するって、よく考えてみたら凄(すご)いことなんだと気づく。

他にもチェコの作曲家バルトシュやイスラエルの作曲家コーガンの作品が取り上げられた。いずれも初めて耳にする曲だが、バボラークの演奏の巧みさと相まって、大変魅力的であった。

アンコールが、またしゃれていて、田中カレンの『魔法にかけられた森』より第2楽章とマイケル・ホーヴィット作曲の『サーカス』組曲から、第1曲「マーチ」、第3曲「象」、第4曲「空中ブランコ」、第5曲「ピエロ」が演奏された。初めて聴く曲ばかりだったが、特に後者は、彼のホルンこそサーカスだと言いたいくらい、超絶技巧の連続だった。

聴衆の大喝采のうちに約2時間は、あっという間に終わった。まだまだ聴いていたいと思わせるくらい楽しい演奏会だった。


Baborakleaf


ホルンという楽器は、とにかく演奏が難しく、アマチュアオーケストラだけでなくプロのオーケストラにとっても、ホルンセクションは「鬼門」である。オーケストラや吹奏楽では、とにかく曲の重要な場面で頻繁に使われるので、他のセクション以上に、ホルンの出来不出来が、演奏会の成功を左右するといっても過言ではない。聴き手は、どんなに上手いオーケストラであっても、多少なりともハラハラしながら聴いているものだ。

僕は、アマチュアオーケストラを聴く機会が多いのだが、中には聴くに堪えない下手なホルンセクションを抱えたオケに遭遇することがある。聴き続けるのが、正直、辛いのだが、だからといって、そのホルン奏者たちばかりを責める気にもならない。それほどホルンを上手く演奏することは、至難の業なのだ。

しかし、バボラークの演奏は、どんな場面でも全く破綻がなく、不安を微塵も感じさせない。確かにホルンを吹いているのだけれど、時にトロンボーンを思わせるグリッサンドを演奏したり、トランペットのような鋭く輝かしい音を出したり、サクソフォンのような妖艶な音を響かせてみたりと、とにかく彼一人で、何役もこなしてしまう勢いである。
彼のように器用に楽器を操る姿を見ると(少なくとも聴き手には、そう思える)、「ホルンって、吹くの簡単そうだな」と、大変な誤解する人が出てくるのではないか、そういった要らぬ心配をしてしまう。

過去にも、ヘルマン・バウマンとかバリー・タックウェルなどのホルンの名手は存在した。彼らの実演に接していないので何とも言えないが、バボラークほどの名手は、前代未聞、空前絶後なのではないか。他のホルン奏者とは次元が違う。たぶん素人の僕より、実際にホルンを演奏したことがある人なら、実感していただけるのではないだろうか。


フレンチ・リサイタル 20世紀フランス近代ホルン&ピアノ作品集(エクストン)


Baborakcd


演奏会終了後、CD購入者にはサイン会が開催されるということで、ホワイエの販売コーナーに向かったが、いざ、会計の段になって、胸ポケットに入れていたはずのお金が見当たらない!数年前、運転免許証やキャッシュカードなどの貴重品が多数入った財布を紛失してしまい、大変なことになった記憶がある。それ以降、財布を持つことが怖くなり、メモ用紙の間に数枚の紙幣を折り込み、胸ポケットに入れるだけにして用心していたのだが、また、やってしまった…。

せっかく素晴らしい演奏会の余韻を、自分自身の不注意によって半減させてしまったことに落ち込んだ。それでも、小銭入れの硬貨や手帳に挟んである予備のお金をかき集めて、何とかCDを買うことができたのは、不幸中の幸いか。サイン会では、日本語を交えながら気さくにファンの要望に応じるバボラークの姿が印象的だった。


Baborak2


後日、バボラークは名古屋フィルハーモニー交響楽団との定期演奏会にも登場し、リヒャルト・シュトラウスの『ホルン協奏曲第2番』を演奏するのだが、所用により行くことができないのは返す返すも残念。バボラークは日本びいきで、毎年のように来日しているとのことなので、次回も機会があれば、ぜひ聴きにいきたいと思っている。


※敬称は省略させていただきました。ご了承ください。

« 2013年12月 | トップページ | 2014年2月 »

2016年10月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

Twitter

無料ブログはココログ

Amazon ウィジェット

  • ウィジェット