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2012/11/25

武満徹の「うた」を聴く

11月18日、三井住友海上しらかわホール(名古屋市中区)で開催された東京混声合唱団特別演奏会を聴いた。

日本を代表する合唱団のひとつ東京混声合唱団により武満徹(たけみつ・とおる、1930~1996)の残した全合唱曲を、通して聴ける貴重な機会であり、武満ファンを自認する者としては、ぜひ聴いておきたいコンサートであった。

日本を代表する世界的な作曲家である武満徹は、その生涯において数多くのオーケストラ曲や室内楽曲を作曲する一方で、映画音楽においても優れた功績を残したことで知られる。それに比べて声楽の作品は決して多くない。最晩年にはオペラの作曲にも意欲を燃やしたが、取りかかる前に亡くなってしまった。誠に残念なことといわざるを得ない。

残された声楽曲は、一部の曲を除いて難解な現代音楽作曲家の作品とは思えないシンプルで分かりやすいものである。その中で最も広く知られているのは、混声合唱のための「うた」であろう。僕も30年ほど前に岩城宏之&東京混声合唱団のLPレコードを購入して以来、長く親しんできた合唱曲集だ。


武満徹合唱作品集(ビクターエンターテインメント株式会社)

Takemitsucd3


元来この作品は連作を意図したものではなく、長年にわたって個別に作曲されたものを、後に作曲者自身によってまとめられた合唱曲集であり、最終的には全12曲で構成されている。こうした事情にもよるのかもしれないが、当初の印象としては、妙な違和感を持ったのも事実である。

確かに「小さな空」や「見えないこども」は、メロディーやハーモニーがまるで虹を見るかのごとく美しいと思ったし、とりわけ後者は、子どもを産むことができなかった女性の切々とした哀しみを表した歌詞に深く感銘を受けたものだ。しかし、その反面、「○と△の歌」や「恋のかくれんぼ」は、歌詞の内容が軽薄すぎるように感じたし、「死んだ男の残したものは」に至っては、反戦思想に基づく、軍歌のカウンターソングのように聞こえるなど、全体的には玉石混淆の感が否めなかった。「前衛音楽の作曲家が、手すさびに書いたポピュラーソング」という興味本位の話題が先行し、実際の内容以上に、もてはやされているだけなのではないかと思ったものだ。もちろんその後、年月が経つにつれ、曲に対する印象も変わっていったのだが…。


Shirakawahall3


そんな中で出かけた当日の演奏会。その冒頭、指揮者の山田和樹氏が、おもむろにステージに登場し、プログラムの演奏順の変更について説明。どうやら前日、東京(王子ホール)での反省に基づくものらしい。また、後半に演奏される混声合唱のための「うた」は、全曲続けて演奏したら、曲の持つエネルギー?が強すぎるためか、歌う側も聴衆も何かしんみりとしてしまったとのこと。「今日はぜひ、曲間ごとに拍手をいただけるとうれしい」という内容を、ユーモアを交えて語った。

最初に歌われたのは、「MI・YO・TA」。今回は沼尻竜典氏による新しいアレンジを施されての演奏だった。僕は1996年、武満徹の告別式において、この曲が黛敏郎により披露された場に居合わせている。あのハミングの短いメロディーが、作曲者の盟友、谷川俊太郎による歌詞が付き、美しいハーモニーをまとい、立派な曲に仕立てられていることに隔世の感を抱いた。

この曲をプログラムの冒頭に持ってきたのは、武満の世界に違和感なく誘(いざな)うための趣向で、これ以降、前半のプログラムには、比較的難解な作品が続くことになった。特に男声合唱のための「芝生」は、まさに前衛音楽で、委嘱元のハーバード大学グリークラブも、結局その演奏の難しさのために初演できなかったらしい。しかし、今回の東京混声合唱団の演奏は本当に素晴らしいもので、難解な響きの中にも、美しい瞬間が何度もあった。続く男声六重唱のための「手づくり諺」は、何かあっという間に曲が終わってしまい、印象に残らなかったが…。

前半最後は、当合唱団委嘱作品でもある混声合唱のための「風の馬」。これは未完の作品だが、全体のバランスが悪いわけではない。前述の「芝生」ほどではないにしろ技術的に難しい曲が続くが、あくまで調性音楽の枠内でつくられていて、「食卓の伝説」や「第3ヴォカリーズ」(今回、曲順が入れ替えられた)では、A-durの和音が朗々と響きわたる。

休憩をはさんで後半は、いよいよ混声合唱のための「うた」。今回改めて実感したのだが、どの曲も独特の世界観を持ち、訴求力が強い。生の歌声のパワーは相当なもので、とりわけ「死んだ男の残したものは」における、ひたひたと迫る臨場感・説得力は衝撃的ですらある(客席からは、すすり泣きが…)。 これらの「うた」が、決して作曲家の余技ではなく、真摯(しんし)に取り組んだ珠玉の作品群であるという印象を新たにした次第。そして、東京混声合唱団の歌声の素晴らしさ!

指揮者の山田和樹氏はオーケストラ指揮者としても、近年、評価が著しいが、聴き手を曲の世界に引き込むその見事な手腕は、まさに「マジック」と呼べるもの。今回、混声合唱のための「うた」で、曲の余韻を次の曲まで引きずらないように、1曲ごとに拍手を挟んだことも、とても効果的だったと思う。

アンコールでは指揮者のピアノ伴奏により、去る1月に亡くなった林光の編曲による「死んだ男の残したものは」が歌われたが、これも心に響く名演だった。


Toukonleaf


終了後、東京混声合唱団のメンバーが聴衆と一緒にロビーに出て、共に演奏の余韻を楽しみ交流を深めていた。今回のステージづくりを見ても、どうしたらお客さんに楽しんでもらえるか、いかにしてファン層の拡大につなげていくかなど試行錯誤の跡(工夫)を随所に感じた。今回は武満作品を聴くという目的で出かけたのだが、別のプログラムでも聴いてみたいと思わせる素晴らしい演奏会だったと思う。


【参考音源】

「MI・YO・TA」


【追記】

待望のCDが、エクストン・レーベルからが発売されました。

武満徹「全合唱曲集」(エクストン)

Takemitsucd4


※一部、敬称を省略させていただきました。ご了承ください。

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