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2012年7月

2012/07/28

活躍する名古屋のアマチュアオーケストラ

コンサートを聴きに出かけることは、CDを聴いたりテレビ番組を見たりすることとは違って「格別な」時間だ。

まず何と言っても、会場の雰囲気、そしてその臨場感がいい。例えばオーケストラコンサートの場合、楽団員がチューニングを終え、指揮者が登場し棒が振り下ろされる緊張の瞬間。曲が進むにつれ会場のボルテージが徐々に上昇し、クライマックスではホール内の空気が熱気とともに、じんわりと「湿り気」を帯びるのを感じる。そして、最後の和音の残響とともに訪れる一瞬の静寂。わき起こる拍手。会場に集った多くの聴衆と分かち合うこうした一連のひとときは、他に代えがたい喜びがある。

僕がよく出かける場所は名古屋で、市内には愛知県芸術劇場コンサートホールや三井住友海上しらかわホール、電気文化会館ザ・コンサートホール、宗次ホールなど優れたホールが存在し、日々多くのコンサートが開催されている。

そして、僕にとって大きな楽しみのひとつは、名古屋市近郊のアマチュアオーケストラの演奏会を聴くことだ。

ご存じの方もあるとは思うが、愛知県内には学生や社会人によるアマチュアオーケストラが数多く存在(約50団体)し、公演が盛んに開かれている。プログラムもなかなか意欲的で、ブルックナーやマーラー、ショスタコーヴィチなどの大作が取り上げられる機会も多い。チケット料金は手頃だし、演奏レベルも結構高い。今まで数多くの演奏会に出かけているが、思いがけず感動的な演奏に巡り会うことがあり、プロのオーケストラとはまた違った楽しみになっている。

このアマチュアオーケストラのポテンシャルが広く知れわたることになった象徴的なプロジェクトが、先日、シリーズ完結を迎えた「名古屋マーラー音楽祭」である。これは名古屋市近郊のアマチュアオーケストラ11団体が、マーラー没後100年を記念して、2011年1月から約1年半をかけ、マーラーの交響曲をほぼ番号順に1曲ずつ演奏するという壮大なもの。その締めくくりとなる演奏会が、先日7月15日と16日の両日に開催されたので、僕は2日目の演奏会に出かけた。


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この日演奏されたマーラーの『交響曲第8番』は「千人の交響曲」とも呼ばれ、大編成の管弦楽、8人の独唱、2群の合唱に児童合唱が加わる。作曲家マーラーの集大成といえる交響曲で、およそ100年前、彼自らが指揮をしたミュンヘンにおける初演は、その名のとおり千人を超える演奏者により演奏されたとの記録がある。

大がかりな編成が必要になるため、準備(コスト面を含め)も大変で、プロオーケストラの演奏会でもなかなか聴く機会に恵まれず、かのNHK交響楽団でさえ、これまでに3回演奏されただけである。当日のプログラムによると、名古屋で演奏されるのは、1985年、1988年、1995年(いずれもオーケストラはプロ)に続いて4回目とのこと。技術面においても難易度が高いことは言うまでもなく、アマチュアオーケストラが挑戦するのは至難の業である。

今回、会場となった愛知県芸術劇場では、舞台設営の関係上、コンサートホールから大ホールに移して行われた。まず、ステージを埋める色とりどりの合唱隊やオーケストラメンバーの数に圧倒される。演奏は、これまでこの音楽祭に参加した団からの選抜メンバーによるフェスティバル・オーケストラ。合唱隊は愛知県合唱連盟傘下の団体で構成されるフェスティバル合唱団が担っていて、これも地元合唱界の層の厚さを物語っている。

演奏は、オルガンが壮大に鳴り響く第1部冒頭の「来たれ、創造主たる聖霊よ(Veni, creator spiritus)!」から、マーラーの言葉どおり「宇宙全体が鳴り響くかのような」演奏が繰り広げられた。合唱・管弦楽とも、よく練られており、技術的な破綻は感じられなかった。正直なところ、視覚から受けるステージ上の圧倒的な規模の割には、聴衆側に十分音が届いてこないという、うらみはあったものの、それはおそらく会場の物理的条件によるもので、曲に対する共感や集中力は素晴らしい。現時点において、これ以上のものを望むことは困難だろうと思われた。

演奏終了後、指揮者である井上道義氏が、この壮大なプロジェクトを企画し、その実現に尽力した実行委員会をはじめとする関係者一人ひとりを舞台で紹介し、その功績を称えていた。こうした人たちのように、夢の実現に向けて、陰に日なたに汗をかいてくれる優れた「人財」の存在こそが、何よりも成功の重要な鍵だったのだろう。井上氏は「名古屋だからできたこと。他でやろうとすると、まとまらない」と述べていたが、本当にそのとおりかもしれないと思った。最後に、聴衆を含めた会場の参加者全員で記念写真を撮り、構想から7年に及ぶ歴史的なプロジェクトは幕を閉じた。


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「名古屋マーラー音楽祭」の余韻も醒めやらぬ5日後の21日、プランタン管弦楽団の第11回定期演奏会のため、再び愛知県芸術劇場(今回はコンサートホール)へ出かけた。

プランタン管弦楽団は、椙山女学園大学(名古屋市)の出身者により発足したオーケストラを前身として発展した団体で、現在、団員数は約70人。年1回の定期演奏会を中心に、市内で活動しているアマチュアオーケストラである。

今回、この演奏会をぜひ聴きに行きたいと思い立ったのは、中部地区初演となる伊福部昭の傑作『シンフォニア・タプカーラ(別称:タプカーラ交響曲)』が演奏されるためだ。僕は、この日の都合が不確定で、当日券を購入することにしていた。前回の演奏会ほぼ満席だったという話を聞いていたし、この日も開演前の長蛇の列を見て少々不安になったが、実際はかなり席に余裕があり、十分によい場所を確保することができた。チケット料金は、500円(全自由席)というのもありがたい。

演奏会の前半、お目当ての『シンフォニア・タプカーラ』が演奏された。冒頭、悠久の森を思わせる緩やかな序奏から、アレグロの主部に入るあたりで、僕はすでに感動で胸がいっぱいになってしまった。北海道の大湿原を思わせる第2楽章アダージョが消え入るように終わると、アタッカで終楽章に突入。4拍目にアクセントを置く「アイヌの踊り」のリズムが印象的で、会場の興奮が徐々に高まっていくのを肌で感じる。


響-伊福部昭 交響楽の世界(キングレコード)

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これまで、CDや映像を通じてこの交響曲が持つ土俗的な魅力に引き付けられてきたが、実演から受ける衝撃は、それをはるかに上回るもので、まさに火の玉のような凄まじい演奏。コーダでは、オーケストラの緊迫感も最高潮(オルギア)に達した。演奏が終わり、指揮者の中村暢宏氏は快心の出来にガッツポーズ。聴衆の熱狂に応え、楽譜を掲げ抱きしめる姿が印象的だった。

休憩に続き、後半ではベートーヴェンやブラームスの作品が演奏されたが、前半で精力を使い果たしてしまったためか、ソロやアンサンブルのミスが随所に目立つ結果となったのは少し残念だった。だが僕にとっては、伊福部作品の熱演が聴けたことで十分に満足で、感動の余韻をかみしめながら会場を後にした。プランタン管弦楽団には、その名前と同じストラヴィンスキーのバレエ音楽『春の祭典』の演奏を、ぜひとも将来の目標に頑張ってもらいたいものだ。


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国内外のプロフェッショナルによるコンサートも、トップレベルの演奏を聴ける魅力と安心感があるが、アマチュアオーケストラの演奏会では、何より音楽を愛する人たちの熱い想いがぎっしり詰まった演奏が聴ける。時としてその醍醐味は前者を上回る。この7月には、そうした素晴らしい演奏会に続けざまに立ち会うことができたので、今回ご紹介させていただいた次第。

これからも可能な限り機会を見つけては、いろいろなアマチュアオーケストラの演奏会を聴いて、そうした感動のひとときを味わいたいと思っている。


【参考映像】
youtubeに、伊福部昭の愛弟子、石井眞木と新星日本交響楽団による貴重な映像が掲載されています。


※一部、敬称を省略させていただきました。ご了承ください。


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