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2012年5月

2012/05/03

ラ・フォル・ジュルネの楽しみ

ゴールデンウィークの一日、びわ湖ホール(滋賀県大津市)に出かけた。

ここ大津市は、僕にとって学生時代を過ごした思い出の場所でもあり、特に紫式部が『源氏物語』を着想したといわれる古刹石山寺周辺は、細かい路地一つひとつまでも記憶に深く刻まれている、文字通り「第二のふるさと」である。この日の大津は晴天に恵まれ、日差しが暑いくらいの陽気。JR大津駅から専用シャトルバスも出ていたが、思い出に浸りながら徒歩で会場に向かうことにした。

琵琶湖畔で釣り糸を垂れる人たちやジョギングする人など、休日の朝を思い思いに楽しむ人たちを眺めながら、湖岸沿いをしばらく歩いてゆくと、目的地のびわ湖ホールが眼前に見えてくる。今までも何度か来ているホールだが、前回は2003年にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏会を聴きに来て以来だろうか、とにかく久々のことになるが、広大な琵琶湖を背景としたロケーションが最高に素晴らしい。今回の目的は、この会場を中心に開催されている「ラ・フォル・ジュルネびわ湖2012」である。


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会場は、すでに朝から大勢の人でにぎわっていた。特に家族連れが多く、屋外に設けられた湖畔広場では、大津商業高校吹奏楽部による演奏がはじまっていた。また、子どもを対象にしたクイズラリーもあり、会場のあちこちに設けられた出題パネルを探して駆け回る子どもたちの姿を数多く目にした。


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ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭(通称「LFJ」)は、1995年にフランスのルネ・マルタン氏の提唱により開催されている世界最大級のクラシック音楽フェスティバルの日本版として、2005年に東京でスタートした。「一流の演奏を低料金で提供し、明日のクラシック音楽の新しい聴衆を開拓する」というコンセプトのもと、現在では、東京、金沢、新潟、大津、鳥栖(佐賀県)でゴールデンウィークの期間を中心に開催され、各会場とも大勢の来場者でにぎわっている。

僕がLFJに出かけるのは、一昨年の金沢に続いて2回目となる。

もともと僕自身、この種のイベントにはほとんど興味がなかった。上記のコンセプトにあるとおり、これは日ごろクラシック音楽に触れる機会の少ない人たちを主対象にしたものであり、縁のないものだと思っていたし、僕らのようなマニアックな連中が大ぜい押しかけて、せっかく初心者がクラシック音楽に触れる機会を奪ってしまうことになりかねないという気持ちもあった。

また、どちらかというとお祭り的要素が強く、クラシック音楽を気軽に聴ける反面、ホール内でお菓子を食べたり、幼児の泣き声や走り回る子どもで演奏に集中できず、とても鑑賞どころではないだろうと思っていたからだ(実は、それは大きな誤解だったのだが…)。毎年、NHK-BSで放送される特集番組を見ることで十分だと思っていた。

しかし一昨年、あることをきっかけに金沢のLFJに出かけてみて、その認識が大きな間違いだったことを痛感した。今さらながらに、その魅力に気付かされたのである。

何しろ会場全体が、音楽に満ちあふれているという雰囲気が素晴らしい。たとえチケットを買っていなくても、あちこちで演奏を楽しめるような「仕掛け」ができている。ひたすら好きな演奏家や曲を目当てにコンサートを渡り歩くのもよいし、ロビーコンサートや街角コンサートを気軽に聞くのもよい。演奏曲目も有名曲からレアなものまで多彩で、初心者からマニアまで楽しめるようなプログラムが用意されている。音楽だけでなく、物販コーナーで買い物をしたり、屋台で食べ歩いたり…。とにかく会場のあちこちで、いろいろな催しを楽しめるのがいい。一日中いても飽きることはない。


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そして何よりも驚いたことは、ホール内での聴衆のマナーが想像以上によかったことだ。楽章間で拍手する人は、ほぼ皆無である。皆、真剣に耳を傾けている。演奏家サイドもLFJのコンセプトを十分に了解した上で、ある種の使命感を持って演奏に臨んでいる様子が伺える。通常のコンサートとは異なる聴衆の雰囲気や反応を敏感に感じ取りながら、それに触発されてか、まさに飛び切りの演奏を披露してくれる。サービス精神も旺盛で、聴衆の熱狂に応えたアンコール演奏も大いに盛り上がる。

今年のLFJのテーマは「サクル・リュス(Le Sacre Russe)」、日本語では「ロシアの祭典」という意味で、チャイコフスキーやラフマニノフ、ストラヴィンスキーたちの作品を中心に、19世紀から現代までのロシア音楽を俯瞰するというプログラムとなっている。

一昨年の金沢のLFJでは、かなり行き当たりばったりで、チケット購入に多くの時間を割かれてしまった反省から(それでも2日間で10以上のコンサートを聴いたが)、今回は、あらかじめお目当てのコンサートのチケットを手に入れた上で、その合間に成り行きに任せて、いくつかのコンサートを聴くというスタイルにした。

今回のびわ湖ホールの会場は、ほどよい混み具合だし、それぞれ「プーシキン」「ドストエフスキー」「トルストイ」と名付けられた大中小の3つのホールやサテライト会場がコンパクトにまとまっていて、会場の移動に一苦労することもない。コンサートの合間には、美しい琵琶湖のほとりを散歩することもできる。


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1つのコンサートも45分~1時間程度という時間で、聴き疲れすることもなく、チケット料金も千円~2千円に設定され、手軽に聴けるのもよい。複数のコンサートをハシゴできる楽しみもある。

今回、ホールでのコンサートは、4つの演奏会を聴くことができた。
ボリス・ベレゾフスキーのピアノ&ウラル・フィルハーモニー管弦楽団によるラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番』では、ダイナミックでロマンティックな演奏に酔いしれ、気鋭の指揮者、川瀬賢太郎指揮の日本センチュリー交響楽団によるチャイコフスキー『交響曲第5番』は、期待を大きく上回るフレッシュで引き締まった演奏に驚いた。

続くイリーナ・メジューエワによる得意のメトネルの作品を中心に構成されたリサイタルでは、その演奏内容だけでなく、ピアノを弾く彼女の美しい「居住まい」に深く心を癒されたし、最後に聴いたラフマニノフの『ピアノ協奏曲第3番』では、大編成のウラル・フィルに対して一歩も引けを取らない上原彩子のピアノを聴いて、彼女のめざましい成長ぶりを実感することができた。

思いがけない新しい発見があるのも、このLFJの魅力で、前回の金沢では、ドラム缶でできた楽器スティールドラムによる「スキヤキ・スティール・オーケストラ」というグループによるライブパフォーマンスに釘付けになったが、今回は、テルミンの構造を組み込んだロシアの民芸品マトリョーシカの形をした「マトリョミン」によるアンサンブルグループ「マーブル」が奏でるロシア民謡が、とても興味深かった。

他にも、会場のあちらこちらで気ままに演奏を聴きながら、十分にLFJの魅力を堪能することができた一日だったが、最も印象的に残ったのは、普段、クラシック音楽やコンサートとは縁が少ないと思われるごく普通の人、それこそ子供からお年寄りまで大勢の人たちが、思い思いのスタイルで熱心に演奏に耳を傾けている姿だった。その光景を目の当たりにした気持ちを、いったいどう表現したらいいのだろうか。「ああ音楽が、いま生きている…」 


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特に東京のLFJでは、演奏会のチケットが手に入らないとか、会場に人が集中して激しい混雑が起こるなど、いくつかの課題もあるが、このLFJがクラシック音楽ファンにとどまらず、多くの人々に支持されていることは間違いない事実である。このLFJほどの規模ではないが、全国各地のホールでも同様の試みが行われているという話も聞く。こうしたイベントをきっかけに、クラシック音楽に親しんでくれる人が少しでも増えることになれば、これほど素晴らしいことはない。


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さて、来年はどんなテーマで開催されるのだろうか。そろそろネタが尽きてきたような気もしないわけではないし、あまりマニアックに偏りすぎても集客が伸び悩むかもしれない。(個人的には、近い将来「日本の作曲家」をテーマに取り上げてほしいと思っている)

いよいよ次回は、東京のLFJにでも出かけてみようかなと思いはじめている。


【参考映像】
アンサンブル「マーブル」によるマトリョミンの演奏です。


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