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2012年2月

2012/02/13

期待の新人ピアニスト、萩原麻未の衝撃

まだまだ寒い日が続く「建国記念の日」の2月11日、新日本フィルハーモニー交響楽団の演奏会を聴くために三重県文化会館(津市)へ出かけた。

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この会館を訪れるのは、十数年前、開館当時に訪れて以来のこと。特に客席数1900の規模を誇る音楽専用の大ホールは、音響の良さで知られているが、今回の目的は、新日本フィルでもブラームスの交響曲でもない。ひとえに萩原麻未(はぎわら・まみ)の演奏を聴くことである。

萩原麻未は、最も活躍を期待されている若手ピアニストのひとり。パリ国立高等音楽院で学び、現在も同音楽院に在籍する彼女は、2010年、第65回ジュネーヴ国際音楽コンクールのピアノ部門において日本人として初めて優勝し、一躍脚光を浴びたことは記憶に新しい。僕も、かねてより演奏を聴いてみたいと思っていたが、なかなかその機会に恵まれず、実演に接するのは今回が初となった。

今回のプログラムは、コンクールのファイナルでも取り上げたラヴェルの『ピアノ協奏曲ト長調』。彼女が最も得意とする作品で、大いに期待が持てる。

白のドレスでステージに登場した彼女は、気取ったところのない素直なお嬢さんといった印象。このラヴェルの晩年の傑作は、古今のあらゆるピアノ協奏曲の中でも、最も華麗な色彩とリズムの変化に富む作品だと思うが、彼女の演奏は、まさにこの曲の世界観にぴったりで、まるで即興演奏かと錯覚しそうになるほどの自由さ、キラキラした音色、そして何よりリズム感が抜群に素晴らしい。まるでピアノと戯れているかのように、ころころと自在に転がるような音。これほどのテクニックがあれば、何でも軽々と弾けてしまうのではないかと思えてしまう。

彼女は、若さとパワーでバリバリ弾きまくるというスタイルではなく、むしろ一音一音に心を込めていくかのような演奏が持ち味のようで、リリカルな第2楽章では、これ以上はないと思われるほど、じっくりと時間をかけて、繊細かつ克明に音楽を描き切ってゆく。低音から高音域に至るまで、強弱の幅、いわゆるデュナーミクがとても広いので、フォルテの場面でも音が割れたりヒステリックに響くことがない。飯森泰次郎の指揮によるオーケストラのサポートぶりも好ましく、クラリネットやコールアングレなどのソロの場面も、なかなかの聴きものだった。

この協奏曲は、全3楽章でも正味20分程度で、あっという間に終わってしまった感があり、いささか欲求不満気味だったが、アンコールでショパンの『別れのワルツ(作品69-1)』を演奏。これがまた感涙もので、最初の音が響いた瞬間から、はっとするほどの美しさに引き込まれる。純度の高いピアニッシモ、たゆたうがごとく揺れ動く絶妙のアゴーギク、そして醸し出される雰囲気の、何と魅力的なことか…。

聴衆の喝采に何度もステージに登場し、照れたように軽くペコっとお辞儀する姿も初々しくて微笑ましい。次の機会には、ぜひソロリサイタルで彼女を聴いてみたいと思う。ベートーヴェンやブラームスなど、果たして、どのような演奏を聴かせてくれるか、大いに楽しみである。


なお、今回の演奏会では、始めにドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』が演奏されたが、まさに夏の午後の、けだるい雰囲気をほうふつとさせる美演で、冒頭の有名なフルートソロに続いて、ホルンやハープが絡んでくる場面では、会場の空気の色や温度が、すうっと変わっていくような感覚を覚えた。

休憩を挟んで、後半にはブラームスの『交響曲第1番ハ短調』が演奏されたが、僕としては残念ながら、感銘を受けるには至らなかった。アンサンブルが練り切れていないためか、パート相互の音色が十分に溶け合わず、スケール感が生まれない。それぞれの楽器の音が原色のまま混じり合っていて、ブラームスの音楽の特徴である分厚く深みのある響きや重量感に欠けている。まるで、芯が残っている生煮えの料理を食べているような印象を受けた。アンコールで演奏されたモーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』のロマンツェも、同様に細部の仕上げが不足していたように思う。


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今回の演奏会では、萩原麻未の実演に接して、その類まれな才能と可能性を実感することができたことが一番の収穫だった。願わくば今後、キャリアを積み重ねていく中でも、その持ち味を損なうことなく才能を伸ばしていってほしい。

会場のロビーでは新日本フィルのCDが多数販売されていたが、彼女のものは無く(そもそも発売されていない)ために触手が伸びることはなかった。近い将来、必ずCDや映像も発売されるだろうから、その時を楽しみに待つこととしよう。


【参考映像】
youtubeに、ジュネーヴ国際音楽コンクールでの演奏が掲載されています。

※敬称は省略させていただきました。ご了承ください。

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