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2012/01/03

愛好家の領域を超えていく人たち

元日、NHK教育テレビで中継されたウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の「ニュー・イヤー・コンサート」を見た。

今回はヨハン・シュトラウスの珍しい作品やチャイコフスキーのワルツが取り上げられるなどの話題もさることながら、2006年に引き続いて2度目の登場となるマリス・ヤンソンスの指揮による演奏は、端正な造形の中に音楽の歓びを感じさせるものだった。

ただし、近年は撮影カメラのアングルに凝りすぎていて、天井高くからパンニングする、まるでジェットコースターに乗っているかような映像が多用され、通常の演奏会ではありえないシーンの連続に強い違和感を覚えた。

テレビ番組では、NHK交響楽団の主席オーボエ奏者である茂木大輔氏のほか3人のゲストが登場し、衛星中継の合間を利用して、興味深い音楽談義が展開された。中でも、「シュトラウスに詳しすぎる」とテロップで紹介された中村哲郎氏のヨハン・シュトラウスに関する造詣の深さや、「世界屈指のウィーン・フィルマニア」と紹介された藤本眞一氏による、実際の楽器を使ったウィーン・フィルの音色に関する解説は、アマチュアでありながら、プロ奏者である茂木氏をうならせるほどで、両人が語る言葉の端々からも、ウィーン・フィルを心から愛する気持ちが溢れていて、とても印象的だった。

中村氏は、日本ヨハン・シュトラウス協会の創設にも関わられ、一方の藤本氏は、ウィーン・フィルの完全ディスコグラフィーを自身のホームページでも公開しているという人物であり、地元のアマチュアオーケストラでも活躍されているとのこと。世の中には、すごいマニアがいるんだなあと感心することしきりであった。


さて、アマチュアの音楽愛好家といって僕がまず頭に思いうかべるのが世界的指揮者・作曲家アンドレ・プレヴィンの世界的コレクター、大阪府池田市在住の木下浩二氏である。

中学2年生のときにホルストの『惑星』のレコードを購入したのがきっかけで、プレヴィンに傾倒し、彼にまつわるあらゆる録音や著書、楽譜などを蒐集し続け、1988年の来日公演時に、プレヴィン本人に会って以降、コンサートに通いつめ、親交を深めた。プレヴィンは、「何でそんなことまで知っているんだ!」「僕以上に僕のことを知っている奴がいる」と驚き、やがて本人だけでなく彼のアシスタントからも見込まれ、ときどき問い合わせがあるという。

日本アンドレ・プレヴィン協会の設立や、ライナーノートを書いたりと活動は広がり、プレヴィンのディスコグラフィや作品目録の作成も依頼される。愛好家もここまで徹底すれば、もうほとんど専門家の域に達しているといっても過言ではないだろう。

Andreprevin_2


愛好家の領域を超えて活躍する人物としては、やはりギルバート・キャプラン(1942~ )の名を挙げなければならないだろう。

合衆国の経済誌の編集者であった彼は、20代のころ演奏会で聴いたマーラーの『交響曲第2番「復活」』に感動。その後、楽譜を購入し暗譜するほどに惚れ込んだ彼は、この交響曲を演奏するためだけに指揮を学びはじめ、やがて自費でプロのオーケストラを雇ってコンサートを開催する。

このレベルでもすごいことだと思うが、1987年には名門ロンドン交響楽団を指揮してCD録音を行い、CBS-SONYから世界発売される。その素晴らしい演奏は評判を呼び、マーラーの「復活」専門の指揮者として各地から招かれることになる。そして2002年には、何とウィーン・フィルを指揮した録音が、ドイツグラモフォンから発売されるに至る。

その後も、彼は「復活」の自筆譜を買い取り、2005年には専門家の協力を得て校訂楽譜を出版している。マーラー研究において、キャプラン氏の功績は極めて大きなものとなっているが、ここまでくれば、もうブラボーとしか言いようがない。生涯を「復活」にかける情熱たるやものすごい。まるで絵に描いたかのようなサクセスストーリーではないか!

いくら感動したからといって、ここまで一つのことを徹底的に追求し、目標を定めて、その実現のために邁進することが、果たして僕にできるのだろうか…。

ひたすら夢に向かって努力していく行動力、根気。おそらくキャプラン氏は、並外れた努力、そして根性(もちろん運も)の持ち主なのだろう。夢を実現する鍵は、アマチュアとかプロとかいう次元のものではないと思い知らされる出来事である。

「聞くだけならアヒルでもできる※」と言ったのは、かのストラヴィンスキーだが、自分も音楽を愛するものの一人として、ただ受身的に音楽を鑑賞するだけではなく、何か夢や目標を持ち、その実現のために日々努力を続けていきたいものだ。

2012年、新しい一年の始まりに当たって、そんなことを考えた。


マーラー:交響曲第2番「復活」
ギルバート・キャプラン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(グラモフォン)


Mahlercd2


※注 正確には、To listen is an effort, and just to hear is no merit. A duck hears also.    
    (鑑賞するには努力がいる。ただ聞くだけなら意味がない。アヒルでも聞こえるのだから)

【参考文献】
『レコード芸術』<2001年1月号、2月号>(音楽之友社刊)

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