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2011年10月

2011/10/08

「お国もの」の辿る道

過日、岐阜市内で開催された演奏会で、久しぶりに交響詩『長良川』の実演を聴いた…、と言ってもピンとくる方は、ごく少数に違いない。

全国各地には、このような「お国もの」とでも呼べる音楽作品は、きら星のごとく存在するが、初演後も地域に親しまれ再演を重ねている作品は、どれくらいあるのだろうか…。そんなことを考えながら、今回は、わが地元である岐阜ゆかりの代表的な作品をご紹介したい。


ソプラノと管弦楽のための交響詩『長良川』

この曲は、日本を代表する作曲家の一人、團伊玖磨(だん・いくま 1924〜2001)によって作曲されたソプラノソロと管弦楽のための作品である。

1976年、岐阜を代表するアマチュアオーケストラである岐阜県交響楽団(通称「岐響」)の社団法人化を記念して岐阜市及び同団が委嘱し、同年、伊藤京子のソプラノ独唱、作曲者の指揮により岐阜市民会館において初演された。当団は、しばしばプログラムに取り上げており、この種の作品としては比較的接する機会に恵まれている曲といえるだろう。

この曲は、『夏の思い出』や『花の街』などで知られる作詞家、江間章子(えま・しょうこ 1913〜2005)の詩に基づく音の風物詩で、2つの楽章から構成され、演奏時間はおよそ20分。

第1曲「川のうた」は、変ロ長調を基調とする。長良川流域の自然と人々の営みを描くラプソディー風の曲。郡上踊りの『春駒』のモチーフや『おばば(岐阜音頭)』の旋律が織り込まれ、日本的な情緒が全編に漂う。

第2曲「火の宴(うたげ)」では冒頭、ニ長調の流麗な旋律が弦楽器で歌われる。やがて舞踊風の旋律が木管楽器で現れ、ひとつの頂点が築かれるうちにソプラノが長良川で繰り広げられる鵜飼の情景を歌う。第1曲とは変わって、西欧風な色彩が特徴である。

作曲者自身にとっても自信作だったようで、音による絵巻物を次々と見ているような雰囲気を味わえる作品である。


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『精霊の庭(スピリット・ガーデン)』

続いて紹介するのは、武満徹(たけみつ・とおる 1930~1996)のオーケストラのための『精霊の庭(スピリット・ガーデン)』である。

この作品は、1994年、飛騨市(当時は古川町)の国際音楽祭の委嘱により作曲・初演された。彼の晩年の代表作のひとつで、最後の大規模な管弦楽曲となった。

1989年に創設された飛騨古川音楽大賞の第1回受賞をきっかけに、飛騨古川の地をたびたび訪れるようになった武満は、その伝統文化や風情をこよなく愛したといわれる。

単一楽章の作品で、演奏時間は約15分。三管編成を基本に数多くの打楽器群、そして彼の作品には珍しくソプラノ・サクソフォンが1本加わる。いわゆる現代音楽であり12音技法に基づいてつくられているが、晩年の武満らしく、基本となる音列にしのばせた協和音によって、随所に調性の香りが感じられる曲となっている。

管楽器によって奏でられ弦に継がれていく主要主題は、幻想的な美しさを持っていて、曲の後半では、古川祭りの「起こし太鼓」のオマージュとして、大太鼓が幾度か深く静かに響き渡る。全編通して、厳粛かつ高貴なトーンに支配されている。

同年7月に若杉弘の指揮、東京都交響楽団によって東京で初演。今年7月には、飛騨市文化交流センターで行われた東京都交響楽団の演奏会で演奏された。(なお、このホールは作品にちなんで「スピリットガーデンホール」と名付けられている)


武満徹 『精霊の庭(スピリット・ガーデン)』

若杉弘指揮、東京都交響楽団(DENON)

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以上、岐阜ゆかりの作品を2曲ご紹介した。もちろん他にも、多くの作品があることは言うまでもない。しかし残念なことではあるが、こうした「お国もの」は、地元関係者や一部の愛好家を除けば、ほとんど知られていないのが現状である。ましてや全国的に幅広く知られていく例は、きわめてまれといってよい。

その理由としては、いくつかの理由が挙げられよう。

1 難かしすぎる内容  
全国的に名を知られた作曲家にお願いできたところまではよかったが、大御所であればあるほど、コミュニケーションが十分に取れず、結果、難解な作品が完成。初演は何とかやり遂げるが、後はほとんど放置状態。

2 特殊な楽器編成
和楽器をはじめとした特殊楽器、合唱などが加わる大規模な作品。演奏する場合、楽器の調達や演奏者の手配などに、新たな経費や手間がかかる仕組み。

3 濃すぎる地域色
地元の民話に基づいた脚本や民謡などを用いることは「諸刃の剣(つるぎ)」である。ローカル色を強くすると泥臭くなりすぎて、普遍性に欠ける結果となることも…。

4 機会音楽
「○○周年記念」や「○○センター竣工記念」などセレモニーで演奏することを目的に新作を依頼。せっかくならと地元の合唱団などとのコラボを企画して大規模な曲をつくり、初演は大成功。CDやDVDを製作し関係者に配布するも、盛り上がりはそこまで。次に演奏する機会は、なかなか巡ってこない。

5 複雑な権利関係
委嘱団体が演奏する場合は問題ないが、他の団体が演奏しようとする場合、著作権処理などの制約が多く、容易に実現できない例もある。

これらはあくまで一般論であり、特定の楽曲について記したものではないが、作品が普及してゆくには、適度な規模・楽器編成、技術的に取り組みやすいこと、親しみやすいメロディーなどの要素を持ち合わせることが大きな鍵となってくるのであろう。作曲家の立場としては、関係資料を集めたり、現地取材などを重ねた上で、よい曲をつくろうと努力されていることには違いなく、結局のところ、責任の多くは作品を委嘱する側にあるといってよい。

その点、今回取り上げた2つの作品も決して例外ではない。とりわけ武満の『精霊の庭』は、世界に誇る傑作であると思うし、もっと演奏されていってほしいと思うところではあるけれども…。


【参考文献】
『時間の園丁』(武満徹 新潮社刊)


※敬称は省略させていただきました。

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