« 奇跡のカウンターテナー、フィリップ・ジャルスキーを聴く | トップページ | 吹奏楽から管弦楽へ ~交響詩『ぐるりよざ』を聴いて~ »

2011/08/13

長く苦しい絶望の果てに ~交響曲第1番「HIROSHIMA」~

今年の夏は暑さもさることながら、例年にも増して感慨深い季節になりそうだ。


Sunsetglow_2


未曾有の大災害、その被害も未だ現在進行形というこの国難に、一人の人間として何ができるだろうか…。そんなことを漠然と考えていたころ、ある作品がCDとして発売されることになった。佐村河内守(さむらごうち・まもる、1963~  )の『交響曲第1番「HIROSHIMA」』である。

彼の経歴については、日本コロムビアのHPや彼の著書をご覧いただきたいが、17歳のころから原因不明の障害に苦しみ、35歳で完全に聴力を失い、今も絶えず発作と頭鳴症が繰り返されるという日常。これが事実なら、まさに想像を絶する残酷な状況としか言いようがない。こうした中、絶対音感だけを頼りにひたすら作曲を続け、2003年秋に完成したのがこの『交響曲第1番「HIROSHIMA」』だという。

僕は、昨年の8月14日に京都コンサートホールで開催された全曲初演に、やむを得ない事情で行けなかったことが今でも心残りで、今回のCD発売は、まさに望外の喜びとなった。CDを手にして、さまざまな思いが心をよぎるが、作曲者自身「被爆2世」とか「重度障碍者」といった音楽以外の話題で取り上げられることを望んでいないとのこと。僕も今回、純粋に音楽そのものに耳を傾けることにした。

曲は一言で言って「長く、重く、暗い」。全体が3つの楽章で構成され、作曲者自身によると、第1楽章は「運命」、第2楽章は「絶望」、第3楽章は「希望」をイメージしたとのこと。全曲にわたり金管群の咆哮、弦の強靭なカンタービレ、そして要所で打ち鳴らされる鐘(カリヨン)が印象的である。

第1楽章序奏部から悲劇的な曲調が支配し、主部に入っても辛口で重量感のある音楽が続く。弦楽器が提示する荘重な第2主題はとりわけ心に残るが、この主題は後の楽章においても重要な役割を果たすことになる。

おそらく一番問題となるのは全曲中最も長大(約35分)な第2楽章で、正直のところ、次々と移り変わるシチュエーションに僕の集中力も途切れがちになった。この楽章は作曲者の思いがぎっしりと詰まった重要な部分と思われ、今後さらに聴き込んでいきたい。

そして第3楽章。長く苦しい絶望の果てに、後半、突如差し込んでくる希望の光。「天昇コラール」とも呼ばれる終結部が始まる。弦楽器で穏やかに奏される「うた」の清澄さ、神々しさはただただ感動的。まるで心のひだにしみるかのごとく、傷つき荒(すさ)んだ気持ちを潤していく。そして高らかに打ち鳴らされる鐘とともに平和への祈りを奏でつつ、圧倒的な輝きの中で曲が閉じられる。

佐村河内守 交響曲第1番 「HIROSHIMA」
大友直人指揮、東京交響楽団(日本コロムビア)

Samuragochicd


全編にわたって、熱い血の流れを感じることができる素晴らしい作品・演奏だと思った。精神が病んでも不思議ではない境遇の中で書き上げた作曲者の、すさまじい「執念」に心を打たれた。日本の現状を思い重ねると、感慨もひとしおである。指揮者の大友直人氏が言うとおり、近い将来、ベルリンフィルで演奏されることを期待したい。(来日公演ではなく本拠地ベルリンで、指揮者はもちろん佐渡裕氏!)

今回のCD発売を契機に、今後もっと彼の作品が紹介されるようになってほしい。次回はぜひ、最近完成したという100分!にも及ぶ大作『交響曲第2番』を聴いてみたいものだ。


【参考文献】
佐村河内守『交響曲第一番』 (講談社)

« 奇跡のカウンターテナー、フィリップ・ジャルスキーを聴く | トップページ | 吹奏楽から管弦楽へ ~交響詩『ぐるりよざ』を聴いて~ »

名盤発見」カテゴリの記事

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

10/24

大友直人&大阪交響楽団
交響曲第一番HIROSHIMA 全曲演奏
ザ・シンフォニーホール

めちゃめちゃ楽しみです!

関西人でラッキーでした。


佐渡裕さんが佐村河内守を・・・・意外に良いかもしれないですね。

情報、ありがとうございます。
シンフォニーホールでの演奏会、何とか都合をつけて行きたいです。(いや、行かなくては!)
一昨年の京都での全曲初演が行けなかったので、万難を排して聴きに行きますよ。


管理人さま
10/24シンフォニーホールには佐村河内守さんがいらっしゃるんですね。

おまけにNHKの撮影も入るそうです。

期待が高まります。

何というビッグニュースでしょうか!
NHKが撮影するということは、BS放送のオーケストラライブなどで放送される可能性がありますね。
多くの人に彼の音楽の素晴らしさを知ってもらえるなら、本当にうれしいです。
お知らせいただき、ありがとうございます。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/46318/52477184

この記事へのトラックバック一覧です: 長く苦しい絶望の果てに ~交響曲第1番「HIROSHIMA」~:

« 奇跡のカウンターテナー、フィリップ・ジャルスキーを聴く | トップページ | 吹奏楽から管弦楽へ ~交響詩『ぐるりよざ』を聴いて~ »

2017年8月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

Twitter

無料ブログはココログ

Amazon ウィジェット

  • ウィジェット