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2011年1月

2011/01/23

進化するヴァイオリニスト ~松田理奈の場合~

1月22日、近年、注目を集める若手女流ヴァイオリニスト松田理奈のリサイタルを聴きに、三井住友海上しらかわホール(名古屋市)へ出かけた。

これまでにも幾度か彼女の演奏会を聴いているが、今回は新録音であるイザイの『無伴奏ヴァイオリンソナタ』から数曲と、前後半でフランクやブラームスのソナタを並べるという意欲的なプログラムでの登場である。

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演奏は、いずれも大変な熱演で、冒頭のイザイから、曲への集中力に驚かされる。続いて演奏されたフランクのソナタでは、第1楽章から第3楽章までをアタッカで演奏し、第4楽章とのコントラストを際だたせる工夫は興味深かった。後半のメインであるブラームスのソナタも圧倒的に素晴らしかったが、プログラム最後に演奏された『カルメン幻想曲』では、わずかながら若さが顔をのぞかせる瞬間もみられた。

アンコールの声に応えて演奏された2曲の小品(グラズノフとコルンゴルト)は、ニュアンスに富んだみずみずしい演奏で、最後には彼女も感極まった様子で、聴衆に向かって感謝の拍手を送っていたのが印象的だった。

伴奏の江口玲は、音色のコントロールが自在で、力が抜けているにもかかわらず朗々と響くピアノが印象的。ソリストをうまくフォローし、リラックスさせる雰囲気づくりもさすがで、まさにベテランの風格であった。

あらためて言うのも何だが、彼女はいわゆる「美人さん」である。
今回のリサイタルのチラシ、また、イザイのCDジャケットを見ても、そのルックスを意識して制作されていることは明白だし、CDに初回限定特典としてDVDが付いているのも、そうした路線の一環であろう。今回の演奏会の聴衆に、とりわけ中高年の男性の割合が高かったのも、あながち無関係とは言えまい。

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10年ほど前、「J-クラシック」という言葉が使われ出したころから、女性男性を問わず、CDジャケットにはアイドル顔負けの写真が使用されるようになった。ビジュアルが重視され、その善し悪しがCDの売れ行きにも影響することは、クラシック音楽の世界でも紛れもない事実となっている。

歴史を振り返ってみても、優れた容姿と才能に恵まれ、それを売りにした音楽家は古今東西数多く、あの帝王カラヤンにしても、ビジュアルを意識した映像や写真を数多く残しているし、容姿が重要なファクターであるオペラ歌手の場合は、いわずもがなである。かっこいい車が速さをイメージさせるのと同様、美形の演奏家からは美しい演奏を想起させるものなのだ。

14歳で初リサイタルを開催し、日本音楽コンクールや日本モーツァルト音楽コンクールで第1位を獲得、ドイツのニュルンベルク音楽大学および同大学院を主席で卒業した彼女の実力に疑いの余地はないが、それだけで「売れる」「ソロヴァイオリニストとしてやっていける」かというと、なかなかそうはいくまい。CDデビューに際し、所属レコード会社としては、実力派であることを謳(うた)いつつ、ビジュアルを意識した路線をとるのも、ただでさえ「売れにくい」クラシック音楽の場合は必須ともいえる。

彼女自身も、その点は十分承知しているはずであり、そういった場合に必ずつきまとう「話題先行で、実力は期待はずれ」という風評は、彼女のような演奏家には宿命のようなものといえる。しかし、実際に彼女の演奏会に足を運ばれた人ならお分かりのとおり、容姿から受ける印象とは異なり、演奏は極めてエネルギッシュで、音色は鋭角的、熱いほとばしりを感じさせるもので、初めて聴く人は良い意味でショックを受けることだろう。そんな外見とのギャップも、彼女の魅力のひとつになっている。

以前の演奏会では、時折、彼女の思いが楽器のコントロールを上回り、音色が荒くなる場面が見られたが、今回は、そのような場面は皆無に等しく、日々進化している彼女の実力を思い知らされたリサイタルだった。

まだ25歳でもあり、日々いろいろ試行錯誤があるのだろうが、さまざまな経験を積み重ね、音楽を深めていってほしい。僕も、そんな彼女の将来を楽しみにしていきたいと思っている。

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