« 2008年7月 | トップページ | 2008年9月 »

2008年8月

2008/08/24

ニールセン フューン島の春

ヨーロッパにおいては、どの国でも象徴的な作曲家というものがいるものだ。例えば、ノルウェーならグリーグ、フィンランドならシベリウス、ハンガリーならバルトーク、チェコならドヴォルザーク云々・・・。

そんな流れで今回は、デンマークを代表する国民主義的作曲家といわれるカール・ニールセン(1865~1931)について述べてみたいと思う。

Nielsen


フューン島の美しい農村で生まれたニールセンは、父親の影響で幼少期から音楽に親しみ、周囲にその才能を認められ17歳のときにコペンハーゲンの王立音楽院を受験するが不合格。そこで同音楽院の院長で、当時のデンマークの音楽界の重鎮であったニルス・ガーデに自作を見てもらうことで、何とか入学を許されたという。

卒業後は、王立歌劇場の楽長やコペンハーゲン音楽協会の指揮者として活躍し、作曲家としても多くの作品を発表。1930年、王立音楽院の院長に就任するが、翌年心臓発作のためこの世を去った。

ニールセンの作品は、初期のころは師であったガーデやグリーグなどの影響を受けた後期ロマン派風の特徴を持っていたが、晩年になるにつれ多調や半音階の語法を取り入れた内向的で難解な作風となっていった。冒頭に国民主義的作曲家と記したが、その音楽は決して民族主義要素が強調されたものではない。

代表作はやはり、6曲残された交響曲で、特に「消しがたきもの(不滅)」という表題を持つ『第4番(作品29)』や『第5番(作品50)』が名高い。他にも管弦楽曲や協奏曲、室内楽曲に傑作が残されている。

常々僕は、交響曲で聴く彼のオーケストレーションの素晴らしさに注目していて、「もし、オーケストラ伴奏のドラマチックな合唱曲があれば、文句なしに素晴らしいに違いない」と思っていた。しかし調べてみると、彼は66年の生涯において、ほとんど数えるほどしか、オケ付きの合唱作品を残していないことが分かった。大変残念なことである。

そんな数少ない合唱作品の中で、お薦めしたいのが、1921年に作曲された独唱及び合唱と管弦楽のための『フューン島の春(作品42)』である。曲は、デンマーク合唱協会主催の「わが国の自然、歴史、生活」をテーマにした詩の公募で選ばれたA.バーンセンのテクストに基づいているが、何と、彼は若き日のニールセンがコペンハーゲンで学ぶために援助してくれた支援者の息子であった。

冒頭「穏やかな日は明るく長く」から、独唱及び合唱が穏やかに、ときには高らかに春の到来の喜びや美しい自然を歌い繋いでゆく。作曲当時のニールセンは、彼自身の離婚問題をはじめ多くの困難を抱えていたが、この作品にはそのような要素は微塵も感じられず、晴れやかで祝祭的な雰囲気に満たされている。1922年に、フューン島の都市オーデンセで行われた初演は、国内外から900人超える合唱団により行われ、デンマーク国王や王妃をはじめ、8千人の聴衆が集まったという。

生まれ故郷フューン島にちなんだ作品、作詞はかつての恩人の子息、そして現在の自身の境遇・・・。ニールセンの心に去来したものはいったいどのような思いだったのだろうか。

演奏時間はおよそ18分


【お薦め盤】
レイフ・セーゲルスタム指揮、デンマーク国立放送交響楽団、合唱団、聖アンナ児童合唱団ほか(シャンドス)

Nielsencd


【追記】
youtubeに映像が掲載されていますので、ぜひご覧ください。(2010年4月加筆)

2008/08/16

尹伊桑 チェロ協奏曲

韓国を代表する作曲家である尹伊桑(ユン・イサン、1917~1995)は、日本の統治時代の朝鮮に生まれ、後年はドイツを中心に活躍した音楽家である。

Isang_yun

大阪でチェロを、その後東京で池内友次郎に対位法を学ぶ。その後、朝鮮の独立運動に関わり逮捕される。太平洋戦争後、プサンやソウルで教鞭を執るが、1956年からはパリ音楽院やベルリン高等音楽学校で学び、作曲家として活動を始める。

しかし、北朝鮮に入国したことにより、1967年、西ベルリンにおいてスパイ容疑でKCIA(大韓民国中央情報部)に逮捕、ソウルに強制送還され、厳しい拷問を受ける。このことにストラヴィンスキーやダラピッコラをはじめ多くの音楽家が抗議し、2年間の服役の後、釈放され西ドイツに帰化する。その後、二度と祖国の土を踏むことはなかった。

彼の音楽は、朝鮮の伝統音楽の要素を前衛的な技法の中に融合・昇華させるという独自の特徴を持ち、歌劇や交響曲、室内楽曲など数多くの作品を残している。よく知られている作品には、管弦楽のための『ムアク(舞踏幻想曲)』や光州事件の犠牲者を追悼するために作曲された『光州よ、永遠に』、無伴奏オーボエのための『ピリ』などがある。

今回取り上げる『チェロ協奏曲』は、フランス文化省の委嘱により、1975年から翌年にかけて作曲された彼の自伝的作品である。

この曲は牢獄での体験という、音楽以外の概念によって形づくられている。私の体験を表現するのにチェロは最適な楽器だった。生死を分かつ場面に直面した体験を、頭の中でどう処理すればよいのかということを、この曲の中で詳細に描写したつもりだ。(尹伊桑)

曲は急緩急の3つの楽章からなるが、それぞれが休みなく演奏される。独奏チェロは彼自身を、オーケストラは彼を取り巻く環境を表現している。両者はさまざまな形で「闘争」を繰り広げるが、最後は、作曲者が「私にとって絶対的な純潔、絶対的に保障された自由」と呼んだA音に収斂(しゅうれん)し、終結を迎える。

演奏時間は約30分

【お薦め盤】
ジークフリート・パルム(Vc)、ハンス・ツェンダー指揮、ベルリン放送交響楽団(カメラータ)

Isanyuncd


2008/08/10

テレマン 無伴奏ヴァイオリンのための12の幻想曲

私事ながら、今日は僕の誕生日である。
そこで今回は、僕のとりわけ思い出深い音楽を紹介させたいただくことにしたい。


後期バロック時代に活躍したドイツの大作曲家ゲオルク・フィリップ・テレマン(1681~1767)は、J.S.バッハやヘンデルと同時代に活躍した音楽家で、生前は彼らをしのぐ人気を博した。

Telemann_2

あらゆる分野にわたり数千曲にもおよぶ膨大な作品を残したとされ、その多くは失われてしまったのが惜しまれるが、歌劇や協奏曲、宗教曲などにおいて、優れた作品が現存する。特に「ターフェルムジーク(食卓の音楽)」と題された組曲やソナタなどの器楽曲集はよく知られ、よく演奏される。

今回取り上げるのは、彼がハンブルク市の音楽監督として活躍した時代の代表作のひとつである『無伴奏ヴァイオリンのための12の幻想曲』である。

1735年、かのJ.S.バッハの作品と前後して書かれたこの曲集は、12の曲それぞれが急緩急の3楽章、あるいは緩急緩急の4楽章からなり、ヴァイオリンの多彩な表現力と対位法を駆使した聴き応えのある作品となっている。

僕にとって、初めて聴いた「無伴奏ヴァイオリンのための曲集」とは、この作品(演奏)のことであり、その感動は今でも忘れられない。バッハの不朽の名作を知った後でも、やはりこのテレマンの曲集に強い愛着を持って今日に至っているのである。

演奏時間は全曲で約63分

僕はこの曲を、高校時代に購入したLPレコードで所有している。今回は下記のCD盤を紹介させていただく。

【お薦め盤】
アルテュール・グリュミオー(フィリップス)

Telemanncd


【追記】
youtubeにも、いくつかの演奏が掲載されています。ぜひお聞きください!(2010年2月加筆)
※もちろん推薦盤とは異なります。

2008/08/09

ルーセル 交響的断片『蜘蛛の饗宴』

今回は、夏の暑い一日にふさわしい曲をご紹介。

近代フランスを代表する作曲家のひとりアルベール・ルーセル※(1869~1937)の管弦楽曲『蜘蛛の饗宴(作品17)』である。
※「ルセル」「ルセール」とも呼ばれることがある。

Roussel

25歳まで海軍中尉であったという作曲家としてはユニークな経歴を持つ彼は、1894年、健康上の理由で海軍を退役後、音楽の道を志すことを決意。パリのスコラ・カントルムでダンディに師事し才能を一気に開花させる。同校で作曲を学ぶ一方で、対位法を教えたという。彼の教え子にはサティやマルティヌーなどがいる。

4曲の交響曲をはじめ、数多くの室内楽作品や歌曲など、あらゆる分野において多くの作品を残しているが、特に広く知られているのは『バッカスとアリアーヌ』をはじめとするバレエ音楽であろう。

今回取り上げる『蜘蛛の饗宴』は、彼のバレエ音楽の1作目にあたる記念すべき作品。1912年末に作曲され、翌年にパリの芸術劇場で初演された。曲は、ファーブルの『昆虫記』をもとにジルベール・ドゥ・ヴォワザンが台本を書き上げた。この曲の初演は成功を収め、ルーセルはこのバレエ音楽を抜粋し「交響的断片」として7曲からなる組曲を編み上げた。

初期のルーセルは、ダンディやドビュッシーの影響を強く受けた作風を示していて、この作品も印象主義的傾向を示したデリケートなメロディーやハーモニーが印象的である。特に「前奏曲」や「夜のとばりがおりた寂しい庭」において奏でられるフルートの旋律は、夏の物憂い昼下がりを想起させるかのようだ。

演奏時間はおよそ17分

【お薦め盤】
ジョルジュ・プレートル指揮、フランス国立管弦楽団(EMI)

Rousselcd


【追記】
youtubeにトスカニーニの名演が掲載されました。(2011年7月加筆)

« 2008年7月 | トップページ | 2008年9月 »

2016年10月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

Twitter

無料ブログはココログ

Amazon ウィジェット

  • ウィジェット