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2006年8月

2006/08/26

ゴルトマルク ヴァイオリン協奏曲第1番

カール・ゴルトマルク(1830~1915)はハンガリー出身の作曲家・ヴァイオリニストで、主にウィーンを中心に活躍し多くの名声を獲得した音楽家であった。ウィーン音楽院では管弦楽法の教授として、シベリウスやフランツ・シュミットらを教えた。

Goldmark

ブラームスやワーグナーに傾倒、ドイツ・ロマン派の系統を受け継いだ作品を数多く残し、生前は演奏会で取り上げられる機会も多かったというが、現在知られているのは、歌劇『シバの女王(作品27)』や『交響曲第1番「田舎の婚礼」(作品26)』、そして今回ご紹介する『ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調(作品28)』あたりだろう。他にも管弦楽曲や室内楽曲などに優れた作品があり、再評価されるべき作曲家のひとりであるといえる。

1877年に作曲されたこの協奏曲は、伝統的な3つの楽章から構成される。第1楽章は冒頭、付点リズムが特徴的な物々しい主題で開始されるが、22小節目から独奏ヴァイオリンが哀愁を帯びた瑞々しいカンタービレを奏で始める。その後も、広がりを感じさせる叙情的な第2主題、フーガを用いた展開部など、聴きどころに事欠かない。

だが今回、この曲を選んだ最大の理由は第2楽章にある。これは「エア」と題されたアンダンテ楽章で、弦楽合奏による静謐な序奏に続いて現れる、独奏ヴァイオリンによる荘重で美しいメロディー。曲はト長調からト短調、そしてまたト長調へと移り変わる中、終始奏でられる艶やかな音色が聴く者の心を捉えて離さない。もちろん続く第3楽章も、ヴァイオリンの華麗な名技が十分に味わえる魅力満載のフィナーレだ。

ヴァイオリニストとしても優れた腕前だったゴルトマルクの、楽器の魅力を生かし切ったその才能には、完全に脱帽である。(しかし、2番目にあたるヴァイオリン協奏曲は未出版のままだという。残念なことだ・・・)

演奏時間は約35分

【お薦め盤】
サラ・チャン(Vn)、ジェームズ・コンロン指揮、ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団(EMI)

Goldmarkcd


【追記】
youtubeに、オルガン伴奏による「エア」が掲載されています。(2010年8月加筆)

2006/08/20

カバレフスキー チェロ協奏曲第2番

ドミートリイ・ボリーソヴィチ・カバレフスキー(1904~1987)は、ソ連時代のロシアにおいて主に教育用音楽の分野で活躍した作曲家として知られている。

Kabakevskij

現在のサンクトぺテルブルクに生まれた彼は、モスクワ音楽院でミャスコフスキーらに師事。在学中から共産党政権が掲げる芸術の大衆化をめざす「学生作曲家創造集団(通称:プロコル)」に所属し、その後も、生涯一貫して社会主義リアリズムの原則に従った分かりやすい音楽を作曲した。特に、青少年のための作品を数多く作曲した。

ショスタコーヴィチやプロコフィエフらが共産党政権から批判を受け、何度も危機的な局面に陥る中、数々の要職を歴任したその生涯を、権力側におもねった(日和った)音楽家と批判する向きもあるが、困難な時代にあって、自分自身の使命を、彼なりに全うしようとした結果であるとも考えられ、残された作品の質の高さを見れば、その業績は決して見過ごすことはできないであろう。

代表作といえば、組曲『道化師(作品26)』が真っ先に挙げられるが、歌劇や交響曲(4曲)、協奏曲、ピアノ曲などにも注目すべき作品があり、今回取り上げる『チェロ協奏曲第2番ハ短調(作品77)』もそうした傑作のひとつ。

この協奏曲は、ソ連の名チェリストであったダニール・シャフランのために1964年に作曲された。全体は3つの楽章から構成されるが、楽章間にはカデンツァが置かれ、すべてがアタッカで演奏されてゆく。

第1楽章冒頭、独奏チェロがピチカートで奏する重苦しい主題に始まり、やがてエネルジーコ(情熱的に)と指示された技巧的なアレグロが続く。カデンツァからサクソフォーンで開始される第2楽章への流れも独創的で、この曲の大きな聴きどころとなっている。第3楽章フィナーレでは、第1楽章の主題が再現しクライマックスを築くが、やがて波が引いていくかのように静かに閉じられる。

演奏時間は約30分

イギリス生まれのロシア系チェリスト、イッサーリスの演奏は繊細かつ大胆で、文句なしに素晴らしい。

【お薦め盤】
スティーブン・イッサーリス(Vc)、アンドリュー・リットン指揮、ロンドン・フィルハーモニック(ヴァージン)

Kabalevskycd


【追記】
youtube掲載の映像も、ぜひご覧ください。

2006/08/19

ウォルトン 『ファサード』第1組曲

サー・ウィリアム・ターナー・ウォルトン(1902~1983)は、現代イギリスを代表する作曲家のひとりである。

Walton

彼の音楽は、ディーリアスやヴォーン・ウィリアムズのようなイギリスの田園風景を彷彿とさせるものではないが、明確な調性に基づきながら用法は新鮮かつ大胆。気品があり、時にユーモア(毒舌の場合も多い)も感じられる。実に「英国らしい」の作曲家なのである。

代表作といわれる2曲の交響曲(第3番は未完)や協奏曲(ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ)をはじめ、あらゆる分野において作品を残しているが、今回は1922年に初演され、彼の名を一躍有名にした出世作『ファサード』を取り上げる。

この曲は、ウォルトンのオックスフォード大学時代の友人の姉、イーディス・シットウェルの詩の朗読のために作曲されたもので、当初は器楽合奏編成であったものを、後に作曲者自身が2曲のオーケストラ組曲に編曲したもので、この第1組曲は、1928年にシエナ国際現代音楽祭で初演されている。

「ポルカ」「ワルツ」「スイスのヨーデル」「タンゴ・パソドプレ」「セビーリャのタランテラ」の5曲からなり、いずれもユーモアとウィットに富んだ親しみやすい小品ばかり。

演奏時間は、およそ12分

次に紹介するディスクでは、第2組曲や第3組曲(クリストファー・パーマー編曲)なども収められていて、ウォルトン入門としても最適である。

【お薦め盤】
ジャン・レイサム=ケーニック指揮、ロンドン・フィルハーモニック(シャンドス)

Waltoncd


2006/08/13

マスネ 管弦楽組曲第7番「アルザスの風景」

『タイスの瞑想曲』で有名なジュール・エミール・フレデリック・マスネ(1842~1912)は、近代フランスを代表する作曲家のひとりであり、彼の作品は生前、主にオペラを中心として大変好評を博した。

Massenet

1878年から、パリ国立高等音楽院の教授となり、ピエルネやシャルパンティエ、アーンなど優れた人材を育てたが、フランクやダンディを中心とした国民音楽協会からは保守派のレッテルを貼られ、鋭い批判の的ともなっていた。

代表作は、『マノン』や『ル=シッド』、『ウェルテル』などのオペラのほかに、管弦楽曲やピアノ曲、歌曲など幅広い分野で数多くの作品を残しているが、ワーグナーの影響を受けつつも、フランスの洒脱さが適度にブレンドされ、非常に聴きやすい音楽が特徴となっている。

彼は管弦楽作品にも力を注いでいて(交響曲が残されていないのは残念だが・・・)、その中核を成すのは7曲の『管弦楽組曲』である。今回取り上げる『管弦楽組曲第7番』は、1881年に作曲された最後の作品で、最も人気の高い作品である。「アルザスの風景」という表題を持つが、マスネが普仏戦争に従軍した際にアルザスに駐留した経験や小説家アルフォンス・ドーデの『月曜物語』からインスピレーションを得たことに由来する。

全体は次の4つの曲で構成される。

第1曲「日曜の朝」
冒頭よりフルートとクラリネットを中心に、日曜日の静かですがすがしい朝の情景が描かれる。曲の半ばにさしかかると教会から流れ聞こえる賛美歌「目覚めよと呼ぶ声あり」が奏でられ、弦楽器などが加わり盛り上がりをみせるが、やがて最初の静寂の中に消えてゆく。

第2曲「酒場で」
田舎の酒場における喧騒を描いた曲。ティンパニのリズムに導かれ、突如、全楽器によるフォルティッシモで荒々しいワルツ主題が奏される。中間部では狩のファンファーレを表す4本のホルンが、オーケストラと掛け合いを演じる。後半ワルツ主題が戻ってくる時の転調(変ホ長調→ト長調)は、ハッとするほど効果的だ。

第3曲「菩提樹の下で」
夏の午後、村はずれの菩提樹の下で、愛を語り合う恋人たちを描く。冒頭、鐘が6時を打ち、ヴァイオリンの伴奏にのって、チェロ(男)とクラリネット(女)のソロが美しいデュエットを奏でる。

第4曲「日曜の夕方」
夕刻の広場の喧騒を表す。アルザス地方の民謡を用いた舞曲を中心に曲が展開する。途中、帰営ラッパの音が聞こえ、第2曲の酒場のワルツも加わり、圧倒的な盛り上がりの中、劇的に曲は閉じられる。

目の前に情景が浮かぶようなメロディーの数々、華麗なオーケストレーションなど、マスネの音楽の魅力が存分に味わえる名曲である。

演奏時間はおよそ23分

【お薦め盤】
ジョン・エリオット・ガーディナー指揮、モンテ・カルロ国立歌劇場管弦楽団(エラート)

Massenetcd

2006/08/12

ベルリオーズ レスルレクシト(主はよみがえり)

わたしに君を抱擁させておくれ。君はもう医者などではなく、薬剤師でもない。誓って言うが、君は偉大な作曲家なのだ。君には才能がある。わたしがそのように言うのは、それが真実だからなのだ。 (ベルリオーズの師、ル・シュールの言葉)


1825年7月10日、パリのサン・ロック教会の委嘱により作曲・初演されたエクトル・ベルリオーズ(1803~1869)の『荘厳ミサ曲』は、彼の名を一躍とどろかせることになった。

Berlioz2

このときベルリオーズは21歳。家業を継いで医者になるためにパリ医科大学に入学、そこで聴いたオペラに感激し作曲を志し、パリ音楽院教授のル・シュールのもとで学びはじめてから、まだ1年ほどしか経っていない。

当時ベートーヴェンやシューベルトなどが活躍していた時代に、パリではロマン主義芸術の恐るべき才能が育ちつつあったのである。やがてベルリオーズは世紀の傑作、『幻想交響曲(作品14)』により一躍、時代の最先端に躍り出て、大規模な管弦楽を駆使した数多くの名曲を生み出してゆく。

彼の出世作となった『荘厳ミサ曲』は、ベルリオーズ自身の指揮により1827年に再演されたが、やがてこの曲に満足できなくなり、一部を除いて破棄してしまう。このころの彼は作曲技術を格段に進歩させ、ローマ賞にも挑戦していた時期にあたり、過去の作品の稚拙さに我慢がならなくなったのであろう。

この破棄されたはずの『荘厳ミサ曲』は、20世紀末の1991年、アントワープの教会で発見され、幻の作品は思いがけずわれわれの前にその全容を表す。そこには若きベルリオーズの溢れんばかりの天賦の才と自信が刻まれていたのである。

今回ぜひ取り上げたいのは、この『荘厳ミサ曲』の「クレド」の第4曲にあたる「レスルレクシト(主はよみがえり)」である。ミサ曲の中でも最も才気あふれる魅力的な曲で、作曲者自身もこの曲だけは救い上げ、大幅な改訂を行った上で幾度か演奏している。しかし結局、この曲も作曲者により破棄され、歌劇『ベンヴェヌート=チェルリーニ(作品23)』や『レクイエム(作品5)』の中で素材が用いられていくことになる。

冒頭からコーダまで怒涛の勢いで曲は展開し、キリストの復活が歌われていくが、特に中間部において「Cujus regni non erit finis(主の国は終わることなし)」の歌詞にのせて歌われるヒロイックな変ロ長調のメロディーが印象的である。

改訂版は、新たなテクストや挿入句が加えられ合唱や管弦楽の迫力が増しているが、個人的には、初版の方が音楽の流れが自然で好ましい。

演奏時間は約7分半

【お薦め盤】
ジョン・エリオット・ガーディナー指揮、オルケストレル・レヴォルーショネル・ロマンティーク、モンテヴェルディ合唱団ほか(フィリップス)

Berliozcd


【追記】
youtubeに「改訂版」の映像が掲載されています。(2009年3月加筆)


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