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2006/02/04

ティルソン=トーマスの『冬の日の幻想』

この『交響曲第1番ト短調「冬の日の幻想」(作品13)』は、チャイコフスキーの初期の傑作のひとつである。

僕が学生当時、なけなしの小遣いで1枚ずつ吟味しながら、LPレコードを買い集めていたころ。グラモフォンの廉価盤シリーズの中で、この盤に目が留まった。「冬の日の幻想」という題名やジャケットも魅力的だったが、何より録音年代の新しい(1971年)ことが魅力だった。

当時、廉価盤しか買えなかった僕にとって、それはとても重要なことだった。なぜなら、「歴史的名盤」という評判やオビにつられて購入したはよいが、録音が古く、モノラルだったり、ステレオ初期固有の硬い音質だったりして失望することが多かったからだ。

当時は、コンポーネントステレオが全盛期だったが、小さな安い装置(モジュラーステレオ)で細々と音楽を聴いていた僕にとって、少しでもよい音で聴けるということは重要なことであり、演奏の素晴らしさ以上に優先される要素だったのである。

さっそく購入し、予想通り録音の良さに大いに満足したが、思いがけず驚いたのは、何より曲の素晴らしさであった。第1楽章の冒頭、ヴァイオリンのトレモロの上に、フルートとファゴットによる「雪の精」のような美しい主題が奏され、題名のとおり、厳しくも美しい冬の世界を思わせる音楽がダイナミックかつドラマティックに展開される。続く第2楽章では、弦楽器による、ほの暗い導入部に続き、心を震わせるような哀愁を帯びたオーボエのメロディーが現れる。この主題の前半部分は長調だが、後半は短調になり、聴き手の心を切なく締め付ける。

B面の第3楽章スケルツォのテーマには、ロシアの雪原を走るソリを連想したものだが、第4楽章については、それまでの曲のイメージに全くそぐわないド派手な展開に、強い違和感を感じたことも事実である。

アメリカの若手指揮者(当時)マイケル・ティルソン=トーマスとボストン交響楽団による演奏は、若々しくパワフルでありながら、叙情あふれる名演奏で、僕にとっては、今でもベストワンに位置付けられる名盤である。

LPを購入した年の冬のある日、自転車通学をしていた僕は、朝、吹雪の中を懸命に自転車をこいでいた。雪の冷たさのため、泣きたくなるような散々な気持ちだったが、堤防道路に差し掛かったころ雪が止み、太陽が差し込んできた。ふと川に目をやった僕は、信じられない光景に自転車を止めた。

雪でさえぎられていた視界が、陽の光によって徐々に霧が消え、対岸まで深く白い霧に覆われた川が目の前に広がった。この世とも思えない美しい幻想的な世界・・・。しばらく呆然と見とれていた僕の脳裏に流れてきたのが、この交響曲の第2楽章の冒頭部分だった。それは素晴らしい瞬間であった。

だが、同時に僕は思った。「おそらく、こんな美しい光景は、人生で二度と見れないだろうな・・・」と。


【お薦め盤】
チャイコフスキー : 交響曲 第1番「冬の日の幻想」 / ドビュッシー:管弦楽のための映像
マイケル・ティルソン=トーマス指揮、ボストン交響楽団(グラモフォン)

1971年録音

Tschaikowskycd


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