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2006年2月

2006/02/19

ボロディン 弦楽四重奏曲第2番

「ロシア5人組」のひとりアレクサンドル・ポルフィーリエヴィチ・ボロディン(1833~1887)は、医師、化学者としての仕事のかたわら作曲を行った、いわゆる「日曜作曲家」であった。残された作品数は決して多くはないが、ロシア国民楽派の代表的作曲家として名を残している。

Borodin

グルジアの皇太子の非嫡出子として生まれた彼は、幼いころからピアノを学ぶが、医学の道に進むべく化学を専攻、やがて陸軍病院での勤務を経て、ドイツのハイデルベルク大学に留学する。その後は、ペテルブルク医科大学の教授として、数多くの優れた業績を挙げた。

その間、ムソルグスキーやバラキレフとの出会いによって作曲にも手を染めるようになり、遅咲きながら優れた才能を開花させ、2曲の交響曲や交響詩『中央アジアの草原にて』などによって名声を獲得する。

しかし、本職の方で多忙を極めていたせいか、代表作として知られる歌劇『イーゴリ公』は20年近くも作曲を続けながらも、動脈瘤破裂による急死により、結局、未完のまま残されることとなった。(後に、リムスキー=コルサコフとグラズノフによって補筆完成)また、『交響曲第3番イ短調』も同様の道をたどった。

今回取り上げるのは、1881年に作曲され、翌年に初演された『弦楽四重奏曲第2番ニ長調』である。

この曲は、愛妻エカテリーナへの愛情の証(あかし)として捧げられたもので、内容もそれにふさわしく、夢見るような楽想が甘く美しい。全部で4つの楽章からなるが、特に第3楽章「夜想曲」は有名で、弦楽合奏への編曲により単独で取り上げられる機会も多い。

演奏時間はおよそ30分

【お薦め盤】
エマーソン弦楽四重奏団(グラモフォン)

Borodincd


【追記】
youtubeにも数多くの演奏が掲載されています。(2010年2月加筆)

2006/02/12

伊福部昭 交響譚詩

この2月8日、日本を代表する作曲家である伊福部昭(いふくべ・あきら 1914~2006)氏が、逝去された。享年91歳。

いつかここでも、その素晴らしい作品を取り上げてみたいと考えながら、先延ばしにしてしまっていたが、本日、追悼の意を込めて、取り上げさせていただきたい。

Ihukube

彼は、一般には、映画『ゴジラ』や『大魔神』など映画音楽の作曲者として知られているが、純音楽の分野においては、まさしく日本の「民族楽派」とでも呼ぶべき作曲家の代表格として活躍した。また教育者としても、芥川也寸志や黛敏郎をはじめ、数多くの優れた人材を育てた。

僕にとっても、深く尊敬する日本人作曲家のひとりであり、十年ほど前、某イベントの交流会会場で、持参した『伊福部昭の宇宙』(音楽之友社刊)にサインをいただくとともに、短い時間ではあったが、その温かい人柄に接することができ、感無量になった思い出がある。

彼の音楽の特徴は、彼が幼少期を過ごした北海道に伝わるアイヌの歌や東北地方の民謡が根底にあるが、彼自身はむやみに民族性を強調しようとしたわけではなく、作曲という創造的行為においては、作曲者が潜在的に持っている美意識や価値観が、おのずと発露されるはずであると考えた。

彼の場合、それがオスティナートの多用であり、ときに暴力的ともいえるオーケストレーションであったわけで、生涯を通して、そのスタイルを貫いたため、前衛音楽が全盛のころは、時代遅れのレッテルを貼られ、中傷や無視といった不遇の時代を、長年堪え忍ばなければならなかった。

しかし1970年代の後半から、一気に再評価の機運が高まることになる。そのエポックメイキングな出来事のひとつである山田一雄指揮、新星日本交響楽団による演奏会は録音にも残されており、その中の『日本狂詩曲』の復活演奏を聴いてみてほしい。演奏が終わるやいなや、一斉に巻き起こるブラヴォーの嵐。品がないとか、やり過ぎだと思われるかもしれないが、これは曲や演奏の素晴らしさに対する賛辞であると同時に、これほどの傑作が、長い間不当に無視されてきた事実、そして、その流れにくみした音楽関係者に対する怒りが入り交じった「叫声」なのだ。

評価が定まったかと思われる今日でも、『レコード芸術』などの音楽専門誌では、いまだに否定的な論評が書かれ続けている。音楽評論家とは、かくも稚拙な感覚しか持ち合わせていないものなのかと呆れるばかりだ。

彼は純音楽の分野において、『土俗的三連画』や『タプカーラ交響曲』などの管弦楽曲、『リトミカ・オスティナータ』などの協奏曲、その他、歌曲や声楽曲など多くの傑作を残しているが、今回ご紹介するのは、彼の若き日の代表作のひとつである管弦楽曲、『交響譚詩』である。

1943年に作曲された二管編成の管弦楽曲で、題名にある「譚詩(たんし)」とは「バラード」の訳語であり、詩的なテーマに基づいた舞踊音楽と考えてよいだろう。

曲は2つの楽章(譚詩)からなり、1曲目のアレグロ・カプリッチオーソでは、彼にはめずらしくソナタ形式を基本に曲が展開する。冒頭いきなりフォルティッシモで始まる主要主題が全体の性格と運動性を形作る。4拍子の曲だが、折々登場する3拍子→2拍子→3拍子→4拍子の部分が、推進力において重要なアクセントになっている。他にも例えば、展開部で196小節目からのヴァイオリンソロの異国情緒など、聴きどころが満載だ。

2曲目のアンダンテ・ラプソディコは、もともと1935年の『日本狂詩曲』の第1曲「じょんがら舞曲」(後に破棄)に基づいて作曲されたものであり、前曲がアジア的色彩が濃いのに比べ、きわめて日本的情緒にあふれている。冒頭のオーボエソロから、まるで荒涼とした雪原のような世界が広がるかのように聞こえる。主題には都節音階やヨナ抜き音階が用いられている。

作曲当時、音楽界において異端児扱いされていた彼であったが、この作品は、例外的に早くから評価が得られ、日本ビクターが主催した第2回管弦楽曲懸賞の第1位に入選するとともに、同曲を収録したSPレコードは、文部大臣賞が授与されるという栄誉を得た。

なお、この曲は、1942年、30歳の若さで亡くなった彼の兄(勲)に捧げられている。

演奏時間はおおむね16分。

【お薦め盤】
広上淳一指揮、マルメ交響楽団(BIS)

Ihukubecd


【追記】
youtubeに音源が掲載されています。


2006/02/04

ティルソン=トーマスの『冬の日の幻想』

この『交響曲第1番ト短調「冬の日の幻想」(作品13)』は、チャイコフスキーの初期の傑作のひとつである。

僕が学生当時、なけなしの小遣いで1枚ずつ吟味しながら、LPレコードを買い集めていたころ。グラモフォンの廉価盤シリーズの中で、この盤に目が留まった。「冬の日の幻想」という題名やジャケットも魅力的だったが、何より録音年代の新しい(1971年)ことが魅力だった。

当時、廉価盤しか買えなかった僕にとって、それはとても重要なことだった。なぜなら、「歴史的名盤」という評判やオビにつられて購入したはよいが、録音が古く、モノラルだったり、ステレオ初期固有の硬い音質だったりして失望することが多かったからだ。

当時は、コンポーネントステレオが全盛期だったが、小さな安い装置(モジュラーステレオ)で細々と音楽を聴いていた僕にとって、少しでもよい音で聴けるということは重要なことであり、演奏の素晴らしさ以上に優先される要素だったのである。

さっそく購入し、予想通り録音の良さに大いに満足したが、思いがけず驚いたのは、何より曲の素晴らしさであった。第1楽章の冒頭、ヴァイオリンのトレモロの上に、フルートとファゴットによる「雪の精」のような美しい主題が奏され、題名のとおり、厳しくも美しい冬の世界を思わせる音楽がダイナミックかつドラマティックに展開される。続く第2楽章では、弦楽器による、ほの暗い導入部に続き、心を震わせるような哀愁を帯びたオーボエのメロディーが現れる。この主題の前半部分は長調だが、後半は短調になり、聴き手の心を切なく締め付ける。

B面の第3楽章スケルツォのテーマには、ロシアの雪原を走るソリを連想したものだが、第4楽章については、それまでの曲のイメージに全くそぐわないド派手な展開に、強い違和感を感じたことも事実である。

アメリカの若手指揮者(当時)マイケル・ティルソン=トーマスとボストン交響楽団による演奏は、若々しくパワフルでありながら、叙情あふれる名演奏で、僕にとっては、今でもベストワンに位置付けられる名盤である。

LPを購入した年の冬のある日、自転車通学をしていた僕は、朝、吹雪の中を懸命に自転車をこいでいた。雪の冷たさのため、泣きたくなるような散々な気持ちだったが、堤防道路に差し掛かったころ雪が止み、太陽が差し込んできた。ふと川に目をやった僕は、信じられない光景に自転車を止めた。

雪でさえぎられていた視界が、陽の光によって徐々に霧が消え、対岸まで深く白い霧に覆われた川が目の前に広がった。この世とも思えない美しい幻想的な世界・・・。しばらく呆然と見とれていた僕の脳裏に流れてきたのが、この交響曲の第2楽章の冒頭部分だった。それは素晴らしい瞬間であった。

だが、同時に僕は思った。「おそらく、こんな美しい光景は、人生で二度と見れないだろうな・・・」と。


【お薦め盤】
チャイコフスキー : 交響曲 第1番「冬の日の幻想」 / ドビュッシー:管弦楽のための映像
マイケル・ティルソン=トーマス指揮、ボストン交響楽団(グラモフォン)

1971年録音

Tschaikowskycd


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