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2005年3月

2005/03/27

ケルビーニ 歌劇『アナクレオン』序曲

イタリア出身の作曲家ルイジ・ケルビーニ(1760~1842)は、『メデア』や『ファニスカ』などの一部のオペラを除き、現在では演奏される機会に恵まれているとは言えないが、生前は、ハイドンやベートーヴェン、シューマン、ブラームスなど多くの作曲家から賞賛を集めるとともに、1822年からはパリ音楽院院長として後進の指導にもあたるなど、音楽界の重鎮として幅広く活躍した大音楽家であった。

Cherubini

幼少期から父親の指導で音楽を学び、22歳でパリに移り住みオペラ作曲家としての道を歩み始めた。1805年にウィーンに出て以降も、フランス語によるグランド・オペラを次々に発表し、彼の名声は高まる一方だったが、やがて1810年前後を境に、宗教音楽を数多く手がけるようになる。

とりわけ1816年、ルイ16世追悼のために作曲された『レクイエムハ短調』は大きな成功を収め、ベートーヴェンが、「自分がレクイエムを作曲するとすれば、ケルビーニが手本になるだろう」と賞賛を惜しまなかったほどである。

さて、今回取り上げる歌劇『アナクレオン(逃げた愛の神、またはつかの間の恋)』序曲は、1803年にパリのオペラ座で初演された古代ギリシャの詩人アナクレオンを主人公にした作品で、2幕からなる作品の冒頭で演奏される作品。ラルゴ・アッサイの序奏からアレグロの主部、そして壮大なコーダへ続く展開がきわめてドラマティックでスケールが大きく、トスカニーニやフルトヴェングラーなど歴代の名指揮者が、戦前より好んで取り上げたことでも知られている。

今回ご紹介する巨匠カラヤンによる演奏も、曲の魅力を最大限に引き出した名演奏である。

演奏時間は約11分

【お薦め盤】
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(東芝EMI)

Karajancd


【追記】
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮&NBC交響楽団.の名演(※モノラル音源)がyoutubeに掲載されています。


2005/03/26

ヤナーチェク 弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」

近代チェコの作曲家レオシュ・ヤナーチェク(1854~1928)は、現代では、チェコの代表的作曲家のひとりとして知られているが、その真価が広く世界に認められるようになったのは、20世紀も後半になってからである。

Janacek

代表作としては、『イェヌーファ』『利口な女狐の物語』などをはじめとするオペラを筆頭に、狂詩曲『タラス・ブーリバ』、『シンフォニエッタ』などの管弦楽曲、『草陰の小径』や『霧の中で』などのピアノ曲など、広範な分野にわたって数多くの作品を残しており、出身地であるモラヴィア地方の民謡を取り入れた国民主義的な作風が特徴となっている。

室内楽曲の分野は、彼が力を注いだこともあり多くの優れた仕事を残しているが、弦楽四重奏曲は2曲が残されていて、いずれも名曲として知られている。

今回取り上げる『第1番』は、ロシアの文豪トルストイ(1828~1910)の小説『クロイツェル・ソナタ』に霊感を受けた作品である。この小説は、長距離列車の中で出会った老紳士が主人公に告白する、不貞を犯した妻を殺害する物語であるが、決して読了感のよいものではない。

この小説を読んだヤナーチェクは、そこに流れる歪んだ思想(それはトルストイ自身のものともいえる)に抗議の意味を込めて作曲したとされ、1923年の10月末から一週間程度で一気に書き上げられたが、もともとこの曲は、現在は失われてしまった『ピアノ三重奏曲』(1908~9年作)が原形となっている。

曲は4つの楽章からなるが、いずれも短い曲で、全曲を通しても17分程度でしかない。

冒頭に、弱音器を付けた第1ヴァイオリンとヴィオラにより切迫した主題を提示する。この陰湿な気分が全曲を支配することになる。
テンポは始終、大きく揺れ動くとともに、民謡調のメランコリックな旋律やモノローグのような音楽の合間に、突然差し込んでくるスルポンチチェロ(※故意に耳障りな音を出すために駒の近くで弓を弾く奏法)による動機が「(倒錯した)殺意」を表現しているようでもある。

聴いていて楽しい作品とは決して言えないが、ヤナーチェクの天才を証明するに足る傑作である。

演奏は、スメタナ弦楽四重奏団の最盛期、ドヴォルザークホールにおける1979年のライブ録音が素晴らしい。


【お薦め盤】
スメタナ弦楽四重奏団(スプラフォン)

Janacekcd


【追記】
名曲でもあり、youtubeにも多くの演奏が掲載されています。(2009年5月3日加筆)


2005/03/19

ショーソン 愛と海の詩 

生粋のパリっ子であったエルネスト・ショーソン(1855~1899)は、近代フランスを代表する作曲家として知られる音楽家である。

Chausson

両親の希望にしたがって法律を学ぶが、音楽の道に進むべく24歳のときにパリ音楽院に入学。マスネに作曲を師事するが、やがてフランクに傾倒し、1971年に国民音楽協会が設立されると、その一員となり活躍した。

自転車事故によって44歳の若さで亡くなったため、作品の数は必ずしも多くはないが、歌劇や管弦楽曲、室内楽曲、とりわけ歌曲の分野で優れた作品を残している。

彼の作品は、和声やオーケストレーションにおいてワーグナーの影響を受けつつも、繊細で感傷的、色彩豊かな作風が大きな特徴であり、代表作としては、ヴァイオリンと管弦楽のための『詩曲(作品25)』や独奏ヴァイオリンとピアノに弦楽四重奏という珍しい編成による『コンセールニ長調(作品21)』などが知られている。

今回取り上げるソプラノと管弦楽のための歌曲集『愛と海の詩(作品19)』は、27歳から10年を費やして1892年に完成された彼の傑作のひとつで、友人でもあった詩人モーリス・ブショールの詩をテクストにした「歌付きの交響詩」と呼ぶにふさわしい作品である。

全体は大きく分けて3つの部分からなり、第1部と第2部の間に、短い間奏曲が加わるという構成をとり、各部ごとが、それぞれ3つに分かれている。第1部「水の花」では、若き青年の抑えようもない恋心が切々と歌われるが、次々と変幻する和声やオーケストラの幻想的で繊細なテクスチュアは、たとえようもなく美しい。

「ゆっくりと、悲しげに」と題された40小節に満たない間奏曲を経て、第2部「愛の死」となり、ここでは過ぎ去った愛の悲しみのモノローグとなるが、とりわけ終結部にあたる「リラの花咲く季節」は有名で、単独の歌曲としても取り上げられる機会も多い。独奏チェロによる半音階の下降旋律が、暗く沈んだ管弦楽の響きとともに強い印象を残す。

曲中ところどころで、ドビュッシーの交響詩や歌曲を思わせるような響きが聞こえてくるが、20世紀に続くフランス音楽の発展に、大きな影響を与えることになる作品となった。

演奏時間は約25分

【お薦め盤】
ジェシー・ノーマン(Sop)、アンミン・ジョルダン指揮、モンテ・カルロ・フィルハーモニー管弦楽団(エラート)

Chausson2cd


【追記】
演奏は違いますが、youtubeには、いくつかの音源が掲載されています。(2009年2月1日加筆)

2005/03/13

カリンニコフ 交響曲第1番

近代ロシアの作曲家であるワシリー・カリンニコフ(1866~1901)は、ロシア5人組に代表される国民楽派とチャイコフスキーらモスクワ楽派、両者それぞれの伝統を継ぐ音楽家である。

Kalinnikov

幼少期から音楽の才能に恵まれ、18歳にはモスクワ音楽院初等科に進学するが、経済的な事情により退学を余儀なくされる。その後も、苦学しながら懸命にキャリアを積みチャイコフスキーにも認められるが、貧困と病気(結核)のため、35歳の誕生日を目前にして、療養地のヤルタで、この世を去った。

この『交響曲第1番ト短調』は、1894年から翌年にかけて作曲された彼の代表作。友人らの奔走により、1897年にキエフで初演され大きな成功を収めるが、病状の悪化のため、作曲家自身は初演に立ち会うことは叶わなかった。他にも、いくつかの管弦楽曲やピアノ曲、歌曲などを残しているが、結局、これが生前、唯一の成功作となった。

死後は忘れ去られ、彼の作品が省みられる機会は、ほとんどなかったが、この交響曲だけは例外で、大指揮者トスカニーニがたびたび取り上げたことで知られている。しかし日本においては、(僕の記憶の限りでは)80年代後半まで、この曲が話題になることはなかったように思う。

しかし、1987年録音のネーメ・ヤルヴィ&スコティッシュ・ナショナル管弦楽団によるCDが、「世界初録音」というアナウンスで、輸入元の株式会社ミュージック東京から発売され、マニアの間で話題を呼び、1993年に、ロシアの大指揮者エフゲーニ・スヴェトラーノフが、NHK交響楽団の定期演奏会で、この曲を取り上げたことが、日本における評価を決定付けることになった。演奏終了後、スヴェトラーノフは聴衆の大歓声に応え、この曲の総譜を両手で高々と掲げたことが思い出される。

曲はチャイコフスキーを、よい意味で薄味にして、ボロディンの民族色を加味したような作風。しかし、全曲に流れるリリシズムは、カリンニコフ独自の魅力である。

以下、聴きどころをいくつか。

第1楽章 アレグロ・モデラート
何といっても、45小節目からのホルン・ヴィオラ・チェロによって歌われる第2主題が素晴らしい!それがヴァイオリンに引き継がれるとき、胸が締め付けられるような郷愁を覚える。

第2楽章 アンダンテ・コモダメンテ      
曲は変ホ長調の幻想的な序奏で始まり、コールアングレが第1主題を穏やかに奏した後、30小節目で突然、嬰ト短調に転調し、オーボエがきわめてメランコリックな第2主題(第1主題の後半部分とする解釈も可能)を歌いはじめる。そのメロディーが、ハープと弦楽器の中から浮かび上がる瞬間は、はっとするほど印象的である。

第3楽章 アレグロ・ノン・トロッポ~モデラート・アッサイ
前楽章とは一転し、ロシアの民族舞曲を思わせる賑やかなスケルツォが繰り広げられる。しかし、トリオでは、オーボエが孤独感を感じさせる旋律を奏でる。スケルツォとトリオの鮮やかなコントラストが聴きどころ。

第4楽章 アレグロ・モデラート
冒頭、第1楽章と同じ旋律で開始される。その後、これまで登場した主題が次々と現れながら徐々に音楽が熱を帯びてくる。コーダでは、第2楽章の第1主題が金管楽器で高らかに奏され、圧倒的なクライマックスを形づくる中、壮大に曲が閉じられる。

演奏時間はおよそ33分

上記のスヴェトラーノフ盤や、作品の普及に大きな役割を果たしたクチャル盤なども捨てがたいが、まずは再評価の立役者ヤルヴィによる、華麗で洗練された演奏を第一に推させていただく。

なお、この曲が気に入った方は、ぜひ『交響曲第2番イ長調』も聴いていただきたい。特に第2楽章アンダンテ・カンタービレが描く世界は、『第1番』に負けず劣らず感動的である。


【お薦め盤】
ネーメ・ヤルヴィ指揮、スコッティシュ・ナショナル管弦楽団(シャンドス)

Kallinnikovcd


【追記】
youtubeにトスカニーニの名演が掲載されています。(2009年12月加筆)

2005/03/12

オネゲル 交響詩『夏の牧歌』

フランス生まれのアルテュール・オネゲル(1892~1955) は、いわゆる「フランス6人組」の一人として知られる作曲家で、第一次世界大戦後のフランス音楽界を牽引する役割を果たした。

Honegger

スイス人の両親のもとに生まれ、幼少期より母親や地元の教会オルガニストから音楽の手ほどきを受け、やがて作曲家の道を志し、パリ音楽院で学んだ。 以後パリを拠点に活躍するが、生涯、スイス国籍を持ち続けた。

フランスの洗練さと、ドイツの構築性を兼ね備えた作風が特徴で、代表作には劇的オラトリオ『ダヴィデ王』や『火刑台上のジャンヌダルク』、『クリスマス・カンタータ』などの声楽曲、5曲の交響曲(第2番以降が有名)などがある。
また、「交響的運動(仏語:Mouvement Symphonique)」と題された大編成のオーケストラ作品、とりわけ『パシフィック231』は、蒸気機関車が動き出し、驀走し停車するまでの動きを描写した音楽として名高い。また、映画音楽の作曲家としても活躍し、50を超える作品を残している。

今回取り上げる『夏の牧歌』は、1920年の夏、両親の故郷であるスイスのヴェンゲンで休暇を過ごした折に、フランスの詩人アルテュール・ランボーの詩『夏のあけぼのを抱きて』に霊感を得て作曲された交響詩で、翌年、パリでの初演が好評を博し、彼の名声を一躍高めることになった出世作である。

曲は三部形式にしたがい、冒頭、ゆらめくような弦楽器の伴奏に乗って、温かく柔らかな主題がホルンにより提示される。その主題が木管楽器、そしてヴァイオリンへと引き継がれていくさまは、まるで田園にさわやかな風が通りすぎてゆくかのようである。曲は中間部の舞曲風のエピソードを経て、やがて冒頭の主題が戻ってくる。

演奏時間は約8分

【お薦め盤】
シャルル・デュトワ指揮、バイエルン放送交響楽団(エラート)

Honeggercd


【追記】
youtubeに音源が掲載されました。(2010年2月1日加筆)
※演奏は異なります。


ストラヴィンスキー 『ペトルーシュカ』からの3楽章

20世紀を代表するロシア出身の大作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882~1971)は、約90年の生涯で、あらゆる分野の作品を残しているが、圧倒的によく取り上げられるのが、初期のバレエ三部作『火の鳥』『ペトルーシュカ』『春の祭典』である。

Stravinsky

ディアギレフ率いるロシアバレエ団のために作曲されたこれらの作品は、ロシアの民族主義やバーバリズム的要素が、リムスキー=コルサコフから受け継いだ華麗なオーケストレーションによって巧みに編み込まれ、ストラヴィンスキーの名を一躍世界にとどろかせる名曲になった。

今回取り上げる『ペトルーシュカ』からの3楽章は、1911年にバレエ音楽として作曲された同名の作品の一部を、ポーランド出身の大ピアニスト、アルトゥール・ルービンシュタインの依頼により、1921年、作曲者自身の手によってピアノ独奏用に編曲されたものである。

「ロシアの踊り」「ペトルーシュカの部屋」「謝肉祭の日」の3つの楽章からなり、藁人形のペトルーシュカが、バレリーナに恋をするが、恋敵のムーア人に殺されてしまうというオリジナルの物語に沿って曲が進む。

「今までで最も難しい曲を書いてほしい」というルービンシュタインの依頼どおり、全曲にわたり超絶技巧が駆使され、ピアニスト泣かせの難曲となっているが、ロシア民謡に由来する親しみやすいメロディーや多彩で輝くようなリズム、ダイナミックな展開など、独創的な魅力に満ち溢れていることから、演奏会で取り上げられる機会も多く、近代ピアノ作品の傑作のひとつに数えられている。

演奏時間はおよそ16分

お薦めは、唖然とするほどの圧倒的なテクニックで聞かせるポリーニの演奏がベストだ。

【お薦め盤】
マウリツィオ・ポリーニ

Stravinskycd


【追記】
よく知られた名曲でもあり、youtubeにも数多くの映像が掲載されています。(2009年2月加筆)
※演奏者は異なります。

2005/03/06

外山雄三 ヴァイオリン協奏曲第1番 

外山雄三(とやま・ゆうぞう、1931~  )は、現代日本を代表する優れた指揮者のひとりであり、作曲家としても数多くの作品を発表している。

最もよく知られている作品は『管弦楽のためのラプソディ』で、比較的大きな編成を要求する曲にもかかわらず、多くの日本民謡が登場する賑やかで親しみやすい内容のため、プロ・アマ問わず、国内のオーケストラにより盛んに演奏されている。

今回取り上げる『ヴァイオリン協奏曲(作品40)』は、1963年に、当時NHK交響楽団のコンサートマスターであった海野義雄の依頼により作曲されたもので、ほぼ同時期に作曲された『交響曲「帰国」(作品53)』と同様、日本的リリシズムが横溢する作品で、作曲家若き日の代表作として知られている。

昔、TV番組「題名のない音楽会」の日本のヴァイオリン協奏曲特集で、司会の黛敏郎が、貴志康一や武満徹の作品とともに、この曲を取り上げていたことが思い出される。

曲は伝統的な3楽章からなり、第1楽章モデラートでは、冒頭、独奏ヴァイオリンによる長いカデンツァを経て、やがて粘着力の強い民謡風の主題が提示される。(僕はこの主題を聞くといつも、美空ひばりの『りんご追分』を連想してしまう・・・)
この主題には全曲を通じて登場する重要なモチーフが含まれ、序々に勢いを増し、全楽器で朗々と奏される中、壮大なクライマックスを形づくる。

第2楽章アンダンテは、全43小節の短い楽章である。上記モチーフに導かれて子守唄のような主題が歌われるが、これは宮崎県民謡の『刈干切唄(かりぼしきりうた)』に基づくもの。この主題がピアニッシモで消えていくと、アタッカでアレグロの賑やかなフィナーレに突入する。ここでは、ヴァイオリンのリズミカルなフレーズ(途中には三味線を模した部分が挿入される!)や打楽器(ドラム、ボンゴ)の活躍が聞きもので、全203小節を疾風のごとく駆け抜ける。

なお、この作品は同年の尾高賞に選ばれている。

数年後に彼は、東京フィルハーモニー交響楽団のために2作目となる『ヴァイオリン協奏曲(作品60)』を作曲していることから、この作品は『第1番』とも呼ばれる。この他、ヴァイオリンのための協奏的作品としては、2002年に作曲された『ヴァイオリンと管弦楽のためのエレジー(作品230)』がある。

演奏時間はおよそ16分

【お薦め盤】
海野義雄(Vn)、外山雄三指揮、NHK交響楽団(コロムビア)

この初演者による演奏CDは、録音は若干ひずみ感があるが、なかなかの熱演。しかし、そろそろ『第2番』を含め新録音を望みたいところだ。

Toyamacd


2005/03/05

チェリビダッケのチャイコフスキー『第5交響曲』

ルーマニア生まれの大指揮者セルジュ・チェリビダッケ(1912~1996)は生前、レコーディング嫌いとして知られ、モノラル時代や自作の録音を除き、正規録音を除き残さなかった。しかし、放送録音は例外?だったようで、僕もFM放送で何度も彼の演奏を聴いたことがあり、ゆっくりとしたテンポと神経質ともいえるカチッとした演奏を、ときどき混じる「ティー、ティーッ!」という鋭い声とともに記憶している。

彼の死後、息子たちにより、生前に残された放送録音から選りすぐりの演奏がグラモフォンやEMIでCD化され、現在、多くの名演を聴くことができるのは、故人の意思は別として、誠にありがたいことだと思う。

これらのCDの中では、シューマンやブルックナーとともに、とりわけ優れた演奏だと思えるのがチャイコフスキーだ。今回は、その中から『交響曲第5番ホ短調(作品64)』を紹介する。

この演奏も他の例にもれず、テンポは遅いが、少しもいやではなく、むしろ確固とした足どりが心地よい。
驚くべきはミュンヘンフィルの演奏で、冒頭からフィナーレまで緊張感とスタミナが切れない。例えば第4楽章の490小節からトランペットが奏でるゆるぎない響きはどうだ。スタジオ録音ではないのに、これはすごいことだと思う。

第1楽章186小節目以降、チャイコフスキーの特徴である「ストリンジェンド(だんだんとせき込んで)」の焦燥感、第2楽章45小節目ピアノから56小節のフォルティッシモに向けての熱い高揚感など、聴きどころは枚挙にいとまがない。

この名曲の最高の演奏のひとつである。

【お薦め盤】
セルジュ・チェリビダッケ指揮、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団(EMI)

1991年録音

Celibidachecd


  

フローラン・シュミット 協奏的交響曲

近代フランスの作曲家フローラン・シュミット(1870~1958)は、パリ音楽院に学び、後にパリ音楽院やリヨン音楽院の院長を歴任するなど、20世紀前半のパリ楽壇の中心人物として活躍した。

Fschmitt

ドイツ系フランス人であった彼の作風は、近代フランス音楽の伝統に基づきながらも、ドイツ・ロマン派の作曲家の堅牢な形式美を兼ね備えており、優れた管弦楽法を駆使したオーケストラ作品にみられる色彩感や官能性は、とりわけ大きな魅力であり、次世代のメシアンやデュティーユにも大きな影響を与えたといわれる。

88歳で没するまで創作意欲は衰えず、舞台作品や管弦楽曲を中心に130を超える作品を残しており、代表作であるバレエ音楽『サロメの悲劇(作品50)』や『詩篇第47番(作品38)』など、CDでもいくつかの名演を聴くことができるが、実演で聴く機会は必ずしも多いとはいえない。わが国では、吹奏楽の世界で『ディオニソスの祭り(作品62-1)』や『サクソフォーン四重奏曲(作品102)』がよく取り上げられるが、今後、本格的な再評価が待たれる作曲家のひとりといえよう。

今回ご紹介するピアノと管弦楽のための『協奏的交響曲(作品82)』は、ボストン交響楽団の常任指揮者であったセルゲイ・クーセヴィツキーの依頼により1928年から1931年かけて作曲された円熟期の代表作。優れたピアニストでもあった作曲者の、渾身の一曲である。

曲は3つの楽章からなり、Assez animé(十分に生き生きと)と指示された第1楽章では、強烈な芳香を放つ管弦楽と超絶技巧のピアノによる絢爛豪華な音響世界が聴く者を圧倒する。続く第2楽章では、ストリングスが奏する神秘的なハーモニーの上に、ピアノや木管が妖しく絡みながら曲は進む。第3楽章は、躍動感あふれる輝かしいフィナーレとなる。

「協奏的交響曲」の名が示すとおり、ピアノとオーケストラが渾然一体となった作品で、初演時から賛否両論を巻き起こしたが、現在では、彼の最高傑作との呼び声が高い。

1934年に、クーセヴィツキーが指揮するボストン交響楽団と作曲者自身のピアノにより初演された。

演奏時間は約37分

【お薦め盤】
フセイン・セルメット(Pf)、デイヴィッド・ロバートソン指揮、モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団(VALOIS)

Florentschmittcd2


【追記】
youtubeに音源が掲載されました。(2010年12月加筆)

【追記】

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