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2004年10月

2004/10/31

平尾貴四男 オーボエソナタ

平尾貴四男(ひらお・きしお 1907~1953)は、東京の裕福な家庭に生まれ、慶應義塾大学では医学部に進んだが、在学中から作曲を志し、ダンディ門下の大沼哲などに和声やソルフェージュを学んだ。卒業後、パリに留学し、スコラ・カントルムなどで研鑽を積んだ俊才である。

Kishio_hirao

彼の作風は、西洋の近代和声に基づきながら、日本の旋法を採り入れたメロディーが特徴であり、晩年の1951年に発表された『オーボエソナタ』は、日本的・東洋的な雰囲気を漂わせながら、オーボエの艶やかな音色や運動性を生かした珠玉の一品である。

彼は、この作品を書き上げた後、病魔におそわれ46歳の若さで亡くなった。

演奏時間はおよそ13分

CDでは、彼の愛娘のピアノ、孫のオーボエによる共演を聴くことができる。

【お薦め盤】
辻功(Ob)、平尾はるな(Pf)(ALM)

Kishio_hirao_alm


【追記】
音はあまり良くありませんが、youtubeに演奏が掲載されています。(2009年2月1日加筆)
※演奏は異なります。

グリーグ 過ぎた春

ノルウェーが生んだ国民的作曲家であるエドヴァルド・ハーゲルップ・グリーグ(1843~1907)は、自国の民謡や民話を研究し、その精神にもとづいた多くの作品を発表し、当時、スウェーデン支配下だった祖国の文化の確立に尽力した。

Grieg

代表作には、劇音楽『ペール・ギュント』や『ホルベルク組曲』などの管弦楽曲、唯一完成された『ピアノ協奏曲イ短調』、『ヴァイオリンソナタ第3番ハ短調』などがあり、コンサートでもさかんに演奏されているが、彼の作曲の根幹をなすのは、ピアノ曲や歌曲である。妻であるニーナとは、おしどり夫婦として知られ、歌曲の多くは彼女のためにつくられている。

今回ご紹介する「過ぎた春(Last Spring)」は、1883年の弦楽合奏のための『2つの悲しい旋律(作品34)』の第2曲である。
元は1880年、歌曲集『ヴィニエの詩による12の旋律(作品33)』の第2曲としてつくられたものを彼自身が編曲したもので、死期が近いと悟った老人が、またこうして春の訪れ感じることができた喜びを歌っている。

弦楽合奏の限りなく美しい歌が、かなしみにも似て、人生の幻冬期を描き出す。深く心に残る名曲である。

演奏時間は4~5分

【お薦め盤】
ネーメ・ヤルヴィ指揮、エーテボリ交響楽団(グラモフォン)

Griegcd


【追記】
youtubeにも多くの音源があります。やはり名曲ですね。(2009年2月1日加筆)
※演奏は異なりますが、超名演です。

2004/10/30

清水脩 月光とピエロ

清水脩(しみず・おさむ 1911~1986)は、真宗大谷派の寺院の次男として大阪市に生まれた。
中学校のころから音楽家を志し、1937年、東京音楽学校(現在の東京藝術大学)に進み、橋本国彦らに師事。1940年には音楽コンクール作曲部門で第1位を獲得するが、戦争のため活動を中断。本格的に作曲家の道を歩み始めるのは戦後になってからのことである。

Shimizuosamu

彼の名を広く世に知らしめたのは、1954年の芸術祭受賞作である歌劇『修善寺物語』である。他にも交響曲や器楽曲など多くの作品を残しているが、とりわけ集中的に取り組んだ分野は合唱作品であり、その数は400曲を超える。

大学在学中、彼はグリークラブに所属していたこともあり、男声合唱曲を数多く作曲している。
中でも、今回ご紹介する男声合唱組曲『月光とピエロ』(1949年発表)は、その代表作とされ、現在も多くの合唱団で愛唱されていて、この曲の成功により、日本独特の「合唱組曲」の形式が確立されたといわれている名曲である。

堀口大學の詩集から選ばれた5曲から構成される作品で、僕にとっても第1曲「月夜」は、歌唱の経験もあり、個人的にも、特に思い出深い。

以下に、歌詞を示す。

月の光の照る辻に
ピエロさびしく立ちにけり。

ピエロの姿白ければ
月の光に濡れにけり。

あたりしみじみ見まわせど
コロンビイヌの影もなし。

あまりの事のかなしさに
ピエロは涙ながしけり。

約束したはずの場所で待てども、想う人は来ない・・・そんな男の悲しみを歌った曲であると解釈し、身につまされた思い出が僕にはある。

演奏時間は約15分

【お薦め盤】
北村協一指揮、関西学院グリークラブ(東芝EMI)

Getskoutopiero


【追記】
youtubeに「月夜」が掲載されています。(2010年8月29日加筆)
※岐阜県可児市の男声合唱団の演奏。

クライバーのシューベルト

この録音がLPレコードで発売されたときのことを、今でも鮮明に憶えている。

まず、何よりもジャケットに惹かれた。
クリムトの『ピアノを弾くシューベルト』の一部分。残念なことにこの絵画は、第二次世界大戦で焼失してしまったが、幸いにもカラー写真が残されているためその全容を見ることはできる。

Schubertklimt

まだ写真がなかったシューベルトの時代ではあるが、この絵は写真以上のリアリティがあり、観る者に多くのイマジネーションをかき立ててくれる名画だと思う。

さて、このシューベルトの『未完成交響曲』であるが、正直のところ、僕は中学生のころまでは、それほど熱心に聴く方ではなかった。初めて買ったコンパクト盤と呼ばれる17センチのレコードも、「未完成」という名前に興味を持ったからだし、その後に購入したブルーノ・ワルター&ニューヨーク・フィルの廉価盤LPも、「運命」のB面に入っていたからだった。
そこで出会ったのが、このクライバー盤である。

演奏を聴いて、想像以上の素晴らしさに心から感動した。
カルロス・クライバーの才能、ウィーン・フィルの表現力は、それまで聴いたどの『未完成交響曲』の演奏をも凌いでいた。それまで、あまりピンとこなかったこの曲が、こんなすごい名曲だったことに強い衝撃を受けた。

Kleiber

例えば、第1楽章の122小節、展開部に入り低弦がC音をトレモロで刻む上に、ヴァイオリンが導入部テーマを奏しながらクレッシェンドしていく部分の恐ろしいまでの緊張感はどうだ。第2楽章でクラリネットやオーボエで奏されるサブテーマの心に刺さる寂寥感も聴きどころである。

そもそもこの曲は、シューベルトのオーケストラ作品ではきわめて異質な存在だ。古典的な形式に従ってはいるが、描かれる世界は時代を超えている。まるでマーラーの交響曲のように思える。この曲の後に作曲された『交響曲第9番ハ長調』の方が、時系列的に見れば正統派の交響曲である。

そして、思いがけず素晴らしかったのは、フィルアップと思っていた『交響曲第3番ニ長調』の演奏。まさに「目から鱗」である。今作曲されたばかりのような新鮮さをもって、聴き手に迫ってくる。個々に聴きどころをあげるときりがないが、第2楽章アレグレットの小気味よいテンポ感、第4楽章のタランテラのような熱狂は他に類がない。

ウィーン・フィルの、艶やかな中にも翳(かげ)りがある音色も、大変素晴らしい。両曲とも、聴くたびに感動を新たにする不朽の名盤だ。

【お薦め盤】
シューベルト:交響曲第8番《未完成》&第3番
カルロス・クライバー指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(グラモフォン)

Schubertcd

2004/10/24

鈴木良雄の「タッチ・オブ・レイン」

今回は、フュージョン系のアルバムから、1986年に発表された鈴木良雄のアルバム「タッチ・オブ・レイン」を紹介したい。

日本を代表するジャズ・ベーシストのひとりである鈴木良雄(1946~ )は、ヴァイオリニストであり、鈴木メソッドの創始者である鈴木鎮一を叔父に持つ音楽一家に生まれた。

幼少のころからピアノやヴァイオリン、ギターなどを学び、早稲田大学卒業後、渡辺貞夫に師事し、彼の勧めもあってベーシストに転向、渡辺貞夫らのグループで活躍する。
その後、ニューヨークに移り住み、11年間、スタン・ゲッツやアート・ブレイキーほか数々のミュージシャンとセッションを重ねキャリアを積む。そして帰国直後に発表されたのが、この作品である。

今回のアルバムの中で、僕が特にお薦めなのが、1曲目の『アワー・サンデー・モーニング』である。
透明感を感じさせる冒頭のピアノと、続くソプラノサックスの温かなメロディーが素晴らしく、それらを支える彼のベースが、何と朝のすがすがしい情景にマッチしていることか!

なお、このアルバムで彼は、作曲とアレンジそしてベースの他に、生ピアノやシンセサイザーも担当している。
まさにオールマイティなジャズ・ミュージシャンである。

 井上淑彦(ソプラノ・サックス)
 秋山一将(エレクトリック・ギター)
 山木秀夫(シモンズ・ドラムス)
 斉藤純(パーカッション) ほか

【お薦め盤】
タッチ・オブ・レイン~〈ミュージック・インテリア7〉
ビクター VDP-1085

Suzukiyoshiocd


【追記】
上記の曲ではありませんが、youtubeで彼の数々の演奏を聞くことができます。(2009年2月1日加筆)

2004/10/23

ドビュッシー シリンクス

フランスの作曲家クロード・ドビュッシー(1862~1918)は、それまでの長音階や短音階の枠から抜け出し、教会旋法、ペンタトニック(五音音階)などを自作に用いるとともに、インドネシアの音楽からヒントを得て、オクターブ間を6等分した「全音音階」を提唱するなど、近現代の音楽の開拓者として知られる。

Debussy

10歳からパリ音楽院で学び、1884年、22歳の時にカンタータでローマ大賞を獲得するなど、作曲家としてのキャリアを着々と積み重ねるが、奔放な女性関係のため、生涯を通じて私生活はトラブル続きであったという。

歌劇『ペレアスとメリザンド』やバレエ音楽『遊戯』、交響詩『海』など、さまざまな分野で多くの傑作を残しているが、今回取り上げる、無伴奏フルートのための『シリンクス(フランス語読みでは「シランクス」)』は、1913年、劇音楽の1曲として作曲された。出世作となった『牧神の午後への前奏曲』と同じく、ギリシャ神話の牧神(パン)を主題にした作品である。

曲は一応、変ロ短調を基本としているが、調性感は希薄で、半音階や全音音階のメロディーにより、終始たゆたうように流れ、神秘的で麗(うるわ)しいギリシャ神話の妖精(ニンフ)の姿を巧みに表現している。

きわめて独創的な傑作であり、無伴奏フルートのため作品としては、J.S.バッハやテレマンの作品とともに、フルーティストには欠くべかざる作品となっている。

演奏時間はおよそ2分半

本来であれば、オーレル・ニコレの名演をお薦めしたいところだが、僕が調べた限りでは、現在CDが発売されていないようなので、次の演奏を挙げる。もちろん、これも素晴らしい演奏である。

【お薦め盤】
ウイリアム・ベネット(CALA)

Debussycd


【追記】
名曲ということもあり、youtubeには多くの演奏がアップされています。(2009年12月加筆)
※もちろん、お薦め盤の奏者ではありません。

2004/10/17

倉本裕基 セカンド・ロマンス

倉本裕基(くらもと・ゆうき 1951~ )は、僕が最も愛好する日本のポピュラー界の作曲家兼ピアニストである。

彼は、6歳からクラシックピアノを習い始めるが、数学の才能にも恵まれ、東京工業大学理学部修士課程を卒業したという経歴を持つ。学生時代には、学生オケとラフマニノフやグリーグの協奏曲を演奏したという。

1986年に、オリジナルアルバム「愁湖」でデビュー。この中に含まれる『霧のレイク・ルイーズ』という曲は、FM東京で放送されていたJAL提供の音楽番組「ジェットストリーム」で評判を呼び、彼の自他共に認める出世作となった。

彼の人気に火がついたのは、いわゆる韓流ブーム、『秋の童話』や『冬のソナタ』をはじめとした韓国ドラマや映画において彼の作品がBGMとして流れたことがきっかけである。(当初は、承諾なしの無断使用だったようだ)今でもコンサート会場には、明らかに韓国ドラマファンの女性が多数来場していて、ある種、異様な雰囲気に違和感をおぼえるときもある。しかし、駄洒落をまじえた軽妙な解説を挟(はさ)みつつ、披露される彼のピアノは文句なしに素晴らしい!(僕は、ストリングスアンサンブルとの共演が、とりわけ好みである)

彼の作品は、ロマン派風の美しく透明感のあるメロディーやハーモニーが特徴だが、今回ご紹介するのは、僕が彼の音楽に惹かれるきっかけとなった名曲、『セカンド・ロマンス』である。

思い起こせば、10年以上前のある朝、出勤途中の車のラジオから、偶然流れてきたこの曲に魅了され、以降、彼のCDをせっせと買い集め、やがてコンサートにも出かけるようになった。遠くは静岡や神奈川、大阪を含め年間3~4回、足を運んだこともある。

曲は三部形式でできていて、冒頭より突然、切なくも美しい旋律(ロ短調)が流れはじめる。このとき左手によるバスの順次進行(B→A#→A→G#→G)にも耳を奪われる。中間部では、ロ長調に転調し、ひとときの幸せが訪れるが、やがてまた、冒頭の旋律に戻ってゆく。

演奏時間は約5分

【お薦め盤】
倉本裕基(Pf)

Kuramotocd


他にも紹介したい曲がいつくもあるが、またの機会に譲ることとしたい。


【追記】
この名曲をyoutubeで聴くことができます。(2012年10月加筆)


作曲者と川井郁子の共演による『霧のレイク・ルイーズ』

ショスタコーヴィチ ジャズ組曲第2番

現代ロシア(ソビエト)が生んだ偉大な作曲家ドミートリイ・ドミートリエヴィチ・ショスタコーヴィチ(1906~1975)は、交響曲や弦楽四重奏曲をはじめ、数多くの優れた作品を残しているが、スターリンをはじめとする社会主義体制下の厳しい時代を生きなければならず、生前中、幾度となく危機にさらされている。

Shostakovich

今回ご紹介する曲は、1938年、新設のプロムナード・オーケストラからの依頼により作曲された『ジャズ組曲第2番』である。

曲は全8曲で構成され、いわゆる「ジャズ」ではなく「軽音楽」、特に彼が得意としてきた映画音楽や劇音楽のスタイルでつくられていて、親しみやすく、くつろいだ作曲家の姿を垣間見ることができる名曲である。

特に「第2ワルツ」は、退廃的で哀愁を帯びた曲調が魅力的で、近年、映画「アイズ・ワイズ・シャット」にも使われたこともあってか、広く知られている。もしかすると今、彼の作品中、最も人気のある曲かもしれない。
(僕個人としては、2曲目の「リリック・ワルツ」の方が好みではあるが・・・)

演奏時間は25分ほど

【お薦め盤】
リッカルド・シャイー指揮、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(ロンドン)

Shostakojazz_suite


【追記】
特に「第2ワルツ」は、youtubeに多くの音源があります。(2009年2月1日加筆)
※この演奏を作曲者が聴いたら、さぞかし喜ぶことでしょう。

2004/10/16

ブルックナー ミサ曲第3番

オーストリアの作曲家アントン・ブルックナー(1824~1896)は、ブラームスやマーラーなどと並んで、後期ロマン派の偉大な音楽家として広く知られている。

Bruckner

幼少期から、リンツ郊外の聖フローリアン修道院の少年聖歌隊に入り、長じては付属教会の優秀なオルガン奏者として活躍しながら合唱曲や器楽曲を作曲していたが、40歳のころにワーグナーの音楽の洗礼を受け、シンフォニストとしての道を歩み出す。

生涯に11曲の交響曲をはじめとするオーケストラ曲を残しているが、宗教曲の分野でも数多くの作品を残していて、1868年に初稿が作曲された、この『ミサ曲第3番ヘ短調』は、『テ・デウム』などとともに、ブルックナーが残した宗教曲の最高傑作に数えられている。

曲はミサの定石に従い、「キリエ」「グローリア」「クレド」「サンクトゥス」「ベネディクトゥス」「アニュス・デイ」の6曲からなり、冒頭より、真摯で清澄かつ荘厳な音楽が展開される。まさにブルックナーの「神への信仰告白」といえる作品で、全てが聴きどころであるが、例えば「ベネディクトゥス」の神々しいまでの美しさは、もはや、この世のものとは思えないほどである。

なお、この曲は、作曲者により何度も手を加えられていて、通常、1881年改訂の第3稿が演奏される。

演奏時間は約70分

チェリビダッケ&ミュンヘン・フィルの演奏は、遅めのテンポで曲の本質を描き切っていて、この曲の決定版ともいえる演奏である。

【お薦め盤】
セルジュ・チェリビダッケ指揮、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団及び合唱団ほか(EMI)

Brucknercd


【追記】
youtubeにも多くの演奏が掲載されています。(2009年2月1日加筆)
※演奏は異なります。

セヴラック 水の精と不謹慎な牧神

マリ=ジョゼフ=アレクサンドル・デオダ・ド・セヴラック(1872~1921)は、スペイン系フランス人作曲家であり、主に故郷の南フランスで活躍するとともに、その作風から「田園の音楽家」とも呼ばれた。

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1897年、パリに出てスコラ・カントルムでダンディやマニャールらに作曲を学んだ。特に、尊敬するアルベニスの助手となって活躍したが、元来都会暮らしは性に合わず、身体も弱かったことから、1906年、アルベニスが亡くなると、翌年、故郷ラングドックに帰ってしまう。

彼は、歌劇や交響詩、歌曲なども作曲したが、即興の名手として活躍したためか、作品の数は決して多くない。しかし、残された作品、とりわけピアノ曲は、故郷の田園風景を描いたような素朴で幻想的な美しさにあふれている。

この『水の精と不謹慎な牧神』は、「夜の踊り」という副題を持つピアノ曲で、彼の遺作のひとつ。
曲は、水辺で遊ぶニンフ(水の精)たちの様子をうかがうフォーヌ(好色な牧羊神)の姿を描いたといわれる作品で、しなるように奏される、きらびやかで何ともなまめかしい響きが特徴である。ドビュッシーが彼の音楽を「よい匂いのする音楽」と評したが、まさに言い得て妙と言うべきであろう。

作曲年は1908年。演奏時間はおよそ6分半

チッコリー二によるピアノ曲集もあるが、まずは1952年、この作品を発掘・出版したドワイアンの名演を聴いていただきたい。

【お薦め盤】
ジャン・ドワイアン(エラート)

Francecd


【追記】
youtubeに待望の音源アップ。必聴です!(2012年1月20日加筆)

イザイ 悲劇的な詩

ベルギーが生んだ大ヴァイオリニストのウジェーヌ=オーギュスト・イザイ(1858~1931)は、幼少期からヴァイオリニストの父に教育を受け、その後もヴィエニャフスキやヴュータンら、名教師に学んだ。1886年、ブリュッセル音楽院教授に任命されて以降は、主に母国の音楽界の発展に力を尽くした。

Ysaye

作曲家としても優れた作品(主にヴァイオリンのための)を、いくつか残していて、特に6曲の『無伴奏ヴァイオリンソナタ(作品27)』は名高い。

この『悲劇的な詩(作品12)』は、1892年から1893年にかけて作曲されたヴァイオリンと管弦楽のための協奏的作品で、冒頭から、ソロヴァイオリンの哀愁を帯びた旋律が揺れ動く心の動きを表す。後半、ラルガメンテ(豊かに)の指示で、オーケストラの総奏による壮大な悲劇のクライマックスを築く場面は、身震いがするほど感動的である。ショーソンの『詩曲』にも匹敵する名曲だと思う。

なおこの作品は、フォーレに献呈されている。

演奏時間は約15分

【お薦め盤】
ジェロルド・ルビンシュテイン(Vn)、メンディ・ロダン指揮、ベルギー国立管弦楽団(コッホ)

Ysaye_disc


【追記】
有名曲でもあり、youtubeに多くの映像が掲載されていますが、これは優れものです。(2009年2月1日加筆)
※ソロヴァイオリンパートの譜面付きです。

2004/10/10

ツェルニー 交響曲第2番

オーストリアの作曲家兼ピアニストであり、音楽教師でもあったカール・ツェルニー(1791~1857)は、現在はもっぱらピアノの練習曲で知られているが、他にも1000曲を超える作品を残している。

Czerny

ベートーヴェンにピアノを学び、『皇帝協奏曲』をはじめ多くの作品の初演を手がけるとともに、秘書として身の回りの世話もしていた。また、優れたピアノ教師でもあり、最も有名な弟子にフランツ・リストがいて、彼を師匠のもとに連れて行き、ピアノ演奏を聴いてもらったというエピソードも残されている。

作曲家としてのツェルニーは、ピアノ曲以外にも、管弦楽曲や室内楽曲など、ロマン派初期の様式に基づく作品を残しているが、今回取り上げるのは、『交響曲第2番ニ長調(作品781)』である。

彼は、交響曲を6曲(不確定)残しているが、この第2番は全編、ハイドンやベートーヴェンの影響を強く残しながら、シューベルトやメンデルスゾーンなど、ロマン派初期の香りも感じられる佳作で、師匠の名作に並ぶとは言い難いが、熟練の筆運びで聴かせる、演奏時間およそ40分に及ぶ堂々たる作品である。

【お薦め盤】
ニコス・アシナス指揮、フランクフルト州立歌劇場管弦楽団(SIGNUM)

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【追記】
youtubeに、この曲がありました。すごいですね!(2010年3月29日加筆、2013年10月14日変更)

フンメル ピアノ協奏曲イ短調

ハンガリー(現在のスロヴァキア)生まれのヨハン・ネポムク・フンメル(1778~1837)は、現在、古典派音楽とロマン派音楽をつなぐ、過渡期の作曲家として知られている。

8歳の時、父とともにウィーンへ移住し、モーツァルトにピアノを、アルブレヒツベルガーに作曲を学んだ後、ハイドンに認められ、その後継者としての道を歩んだ。

当時は、ヨーロッパで最も知られた作曲家兼ピアノ奏者として活躍し、作家のゲーテをはじめ、サリエリ・シューベルト・ツェルニー・メンデルスゾーン・ショパンら音楽家と交友を結んだ。特にベートーヴェンとライバル同士であったことは、有名な話である。

Hummelport

その折衷的な作風からか、死後は急速に忘れ去られ、近年までは名作『トランペット協奏曲』でのみ名をとどめていたが、近年は、再評価が進み、室内楽曲や宗教曲などをはじめCD録音や演奏機会も多い。

さて今回は、第2番とも呼ばれる『ピアノ協奏曲イ短調(作品85)をご紹介したい。
曲は、モーツァルトやベートーヴェンのピアノ協奏曲(特に短調のもの)の影響が強く感じられる一方で、特に第2楽章「ラルゲット」や第3楽章「ロンド」では、ショパンにも通じるような瑞々しく印象的なテーマが奏でられる。
ぜひお聴きいただきたい、霊感にあふれた佳作である。

演奏時間はおよそ30分

この曲をいち早く取り上げ、フンメル復権の立役者の一人となったハフによる名演をお薦めしたい。

【お薦め盤】
スティーブン・ハフ(pf)、ブライデン・トムソン指揮、イギリス室内管弦楽団(シャンドス)

Hummel

【追記】
演奏は異なりますが、youtubeで楽曲を聴くことができます。(2010年3月29日加筆)
※第3楽章「ロンド」前半

2004/10/09

ツェムリンスキー 詩篇第13番

オーストリアの作曲家アレクサンダー・フォン・ツェムリンスキー(1871~1942)は、後期ロマン派の代表的作曲家のひとりであるが、生前は指揮者・音楽教師としての名声が高かった。

Zemlinsky

彼は、20代の半ばにブラームスに認められ、作曲家としての道を歩み出す。また、時を前後してシェーンベルクと出会い、作曲の指導を行うとともに、生涯の親友となる。(後に、妹がシェーンベルクと結婚)また、マーラーとの出会いも重要で、ツェムリンスキーの弟子であり、恋人でもあったアルマ・シントラーは、やがてマーラーの妻となる。

指揮者として名声を獲得した彼であるが、やがてナチス・ドイツが台頭、1938年、アメリカに亡命する。しかし、アメリカでは無名も同然で、やがて病気がちになり失意のうちに亡くなった。
だが、「やがて遅からず、彼の時代が来るであろう」と言ったシェーンベルクの予言どおり、近年は作曲家としての再評価が著しく、そのほとんどの作品が録音されている。

今回取り上げるのは、ナチスの迫害を逃れアメリカに渡る数年前(1935年)のウィーン時代に作曲された、合唱と管弦楽のための『詩篇第13番(作品24)』である。彼は生涯、作曲年代は異なるが3つの詩篇を残しており、いずれも後期ロマン派の色彩が色濃く、この曲も、劇的で華麗なオーケストレーションが特徴の傑作である。

次に、歌詞の一部を示す。

主よ、いつまでなのですか。
とこしえにわたしをお忘れになるのですか。

いつまで、み顔をわたしに隠されるのですか。
いつまで、わたしは魂に痛みを負い、ひねもす心に
悲しみを抱かなければならないのですか。
いつまで敵はわたしの上にあがめられるのですか。
(以下、続く)
日本聖書協会 訳

まるで、当時のユダヤ人迫害の世相を反映し、彼自身の心境を重ね合わせたような詞である。

演奏時間はおよそ14分

【お薦め盤】
リッカルド・シャイー指揮、ベルリン放送交響楽団(ロンドン)

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トゥーツ・シールマンス フルタ・ボア

ベルギー出身のジャズ・ハーモニカ奏者であるジャン=バティスト・フレデリク・イジドール・"トゥーツ"・シールマンス(1922~ )は、この分野の第一人者として日本でも有名であり、その演奏スタイルは、ジョン・レノンをはじめ多くのミュージシャンに影響を与えている。

彼のハーモニカ奏者としての活躍は、第2次世界大戦前後から始まるが、サックスにもひけを取らない表現力とその独特の演奏スタイルは、それまで軽く見られがちだったこの楽器の評価を飛躍的に高めた。

これまで数多くのCDを発表しているが、今回ご紹介するのは、1992年から1993年にかけて発表されたブラジル音楽をテーマにした連作「ブラジル・プロジェクト(The Brasil Project)」からの1曲、『フルタ・ボア(Fruta Boa)』である。

僕は、彼のCDやDVDを数多く所有しているが、とりわけこの曲は、彼の卓越した演奏とともに、バックで奏されるキーボードのからみが美しい。

ちなみに「フルタ・ボア」とは、ポルトガル語で「良い果実」を意味するとのこと。

演奏時間はおよそ6分

Brasil_project

【追記】

『フルタ・ボア』


他にも、youtubeに彼の演奏が数多くアップされています。(2009年2月1日加筆、2012年10月修正)

ヴィオッティ ヴァイオリン協奏曲第22番

ジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオッティ(1755~1824)は、イタリアの名ヴァイオリン奏者、作曲家である。主にパリを拠点として活躍、ヴェルサイユ宮殿では、かのマリー・アントワネットにも仕えたが、後年は指揮者やオペラ座の音楽監督としても名をはせた。

Viotti_2

若いころより名ヴァイオリニストのプニャーニに学び、師とともにヨーロッパ各地を演奏旅行し名声を獲得した彼は、「近代ヴァイオリン演奏の父」と呼ばれているが、作曲家としても、それぞれ20曲を超える弦楽三重奏曲や弦楽四重奏曲をはじめヴァイオリン・ソナタ、ピアノやフルートの作品など、多作家として知られている。

しかし、何といってもヴァイオリン協奏曲(全29曲!)が有名で、そのいくつかは、現在もヴァイオリンの練習曲として使用されている。とりわけ、1798年に作曲された『ヴァイオリン協奏曲第22番イ短調(作品25)』は、最も知られた作品で、演奏会でもよく取り上げられる。

かのブラームスは、友人の名ヴァイオリニストのヨーゼフ・ヨアヒムとともにピアノで何度もこの曲を演奏し、そのたびに感激を新たにしていたことはよく知られる。また、クライスラーの愛奏曲のひとつでもあった。

全体は古典的な協奏曲の形式にのっとり、急・緩・急の3つの楽章からなるが、僕が、とりわけ素晴らしいと思うのは第1楽章である。イ短調の主和音の導入に続き、オーケストラが高貴かつ哀愁に満ちた第1主題を奏で始めるが、何という魅力的な主題であろうか! (昔、民放FM局のクラシック音楽番組のテーマ音楽に使用されていたと記憶している)

ドラマチックなオーケストラによる提示部が終わり、ヴァイオリンが加わった提示部が始まるが、オケとソロヴァイオリンとのコントラストが、ひときわ際立つ印象的な瞬間である。再現部からカデンツァ部に至る主題の怒涛の展開も、心を強くゆさぶられる。

なお、この作品は同郷の作曲家ケルビーニに献呈されている。

演奏は、「パガニーニの再来」と賞賛されたイタリアの名手アッカルドによる、若き日の名演にとどめをさす。(ただし、録音は少し荒い)

演奏時間はおよそ34分

【お薦め盤】
サルヴァトーレ・アッカルド(Vn)、エリオ・ボンコンパーニ指揮、ローマ・フィルハーモニー管弦楽団(RCA)

Viotticd


【追記】
youtubeに多くの音源が掲載されています。(2010年2月加筆)
※演奏は異なります。

2004/10/03

ダウランド 愛しい人が泣くのを

ルネサンス期のイギリスで活躍したジョン・ダウランド(1563~1626)は、エリザベス女王(1世)時代に活躍した作曲家・リュート奏者であり、彼の歌曲の詩には、同じ時期に活躍した詩人・劇作家であるシェイクスピアの作品も含まれている。

Jdowland_2

当時のイギリスは、国教会とカトリックが混在・対立する時代であり、カトリック教徒であった彼は、国教会から受け入れられず、やむなく海外に職を求めた。現在のドイツやイタリアなどヨーロッパ各地を歴訪し、1598年、デンマーク国王お抱えのリュート奏者となった。

母国イギリスで、それもエリザベス女王の下で活躍することを望んでいたといわれる彼だが、1601年、エセックス伯ロバート・デヴァルーの反乱に巻き込まれ、弁明の機会を与えられることなく、失意の日々を送った。

1606年に帰国したが、さまざまな妨害に遭い、ようやく念願であった「国王付属のリュート奏者」の職に就いたのは、エリザベス女王の没後である1612年、ジェームズ1世の治世であった。

現在残されている主な作品は、リュートの独奏または合奏による舞曲、あるいはリュート付きの世俗歌曲(マドリガル)であり、宗教曲はほとんど残されていない。
とりわけ彼の名を有名にしたのはリュート独奏のための作品『涙のパヴァーヌ』であり、1600年に、この曲に歌詞をのせて発表した『流れよ、わが涙(Flow my tears)』は、当時のヨーロッパで大流行したといわれている。

今回取り上げるのは、その『流れよ、わが涙』と同じく歌曲集第2巻に収められている『愛しい人が泣くのを(I saw my lady weep)』である。
その悲しくも透明感のある音楽は、「嘆きのダウランド」と呼ばれた彼の、表現の真骨頂である。

次に、歌詞の一部を示す。

愛しい人が泣くのを、私は見た。
哀しみも名誉を与えられたものだ。
その麗しい眼にはすべてが宿っている。
彼女の顔には悲しみがあふれている。
しかし本当を言えば、その苦しげな顔には、
喜びの顔よりも魅力がある。
(以下、続く)
佐々木勉 訳

この曲の魅力を一層高めているのは、カウンターテナー歌手として高い評価を受けている実力派、アンドレアス・ショルの名唱である。

演奏時間は、およそ4分

【お薦め盤】
アンドレアス・ショル(CT)、アンドレアス・マルティン(Lu) (ハルモニア・ムンディ)

Schollfolksongs

ダウランドの作品は、また日をあらためて取り上げてみたい。


【追記】
youtubeに演奏が掲載されています。(2009年2月1日加筆)

2004/10/02

リムスキー=コルサコフ 弦楽四重奏曲ヘ長調

近代ロシアの代表的作曲家のひとりであるニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844~1908)は、ロシア海軍の軍人としてキャリアをスタートさせたが、17歳の時にバラキレフに出会い、やがて作曲の道を志すことになる。

彼の作風は、代表作として知られる交響組曲『シェへラザード』や『スペイン奇想曲』のように、色彩豊かな管弦楽法が特徴で、それはまるで、音による絵巻物を見ているようだ。

Rimskykorsakov

彼は、作曲家としての初期において、ピアノ曲や室内楽曲を数多く作曲していて、この『弦楽四重奏曲ヘ長調(作品12)』も、1875年に作曲された作品。ペテルブルク音楽院で、本格的に教鞭をとりはじめたころの、瑞々しさにあふれる佳作である。

曲は全部で4つの楽章からなり、いずれも親しみやすいもの。
例えば、第1楽章の冒頭、モデラートで奏されるテーマは、まるでボロディンのようだし、第3楽章のスケルツォ主題は、メンデルスゾーンそのものだ。さらにおもしろいのは、第4楽章の付点リズムの印象的な主題が、かのミッキーマウスのマーチのように聞こえること。

彼のゴージャスでダイナミックなオーケストラ作品とはまた違った、素朴な一面を知ることができる貴重な作品である。なお彼は、これ以降も1897年の『弦楽四重奏曲ト長調』をはじめ、いくつかの弦楽四重奏のための作品残している。

演奏時間は、約20分

きわめて録音が少ないのが残念だが、期待通りの民族色豊かな素晴らしい演奏で魅了するリリック弦楽四重奏団の演奏を、ぜひお聴きいただきたい。

【お薦め盤】
リリック弦楽四重奏団(メリディアン)

Rimskykorsakovcd

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